覚めない夢
黎明
黎明 ~始まりの音を聞いた~
二〇〇四年、四月。
満開の桜とともに、私の大学生活が始まった。
大学のキャンパスを真新しいリクルートスーツが埋め尽くす。私もその例にもれず周囲と識別できないような服装に身を包んでいたが、しかしその他学生とは違いただ無感動にその場に存在していた。
別に大学に来たくてしょうがなかったわけではない。
私の熱意や情熱は残念なことにずっと昔に燃え尽きていた。
つまり無気力だったわけだ。
英語を学ぶ道を目指したものの、留学したいとかフライトアテンダントになりたいとか、そういった目的意識とは無縁だった。
遊びたいという思いすらなかった。
そんな私が大学に進んだのは、ただの成り行きにすぎない。
外国語学部で英語を選んだのは、別に英語が好きだったからとか海外に興味があったからとかそんなわけではなくて、ただ他の科目と比べほんの少しだけ得点を取りやすかったという、ただそれだけの理由である。
私の母校、N高は市内で一番レベルの高い進学校だった。しかし私はこつこつ努力を重ねることが得意だと言うだけで、特段頭が良かったわけではない。
私にとって、両親の期待を失う事は恐怖以外の何物でもなかった。しかし、進学校に籍を置いている人間は総じて皆頭が良い。
私は良くも悪くもない成績を保ちながら、偏差値に見合った大学を適当に選んで受験した。そうしたら前期で落ちて後期で受かった。
そしてたどり着いた、このキャンパス。
第一志望という名のレールから外れたのは今回が生まれて初めてだったが、それに対して特に感じるところはなかった。
無感動な瞳で咲き誇る桜を見上げてみる。
目の前に広がる光景は、私の目にはひどく薄ぼんやりとしていて現実味がなく、何だか遠い世界のことのように思えた。
おかしな話だが、幼いころから私には自分の人生を他人事のように眺める癖があった。
要するに『響なみ』いう恣意的な音素配列、一種の記号を付与された人間の人生を、あたかも一個の物語<フィクション>であるかのように眺めていたのである。
そんな私の眼にはこの世の中の全てが作り物のように見えて、そこに存在するという確固たるリアリティが感じられなかった。
どうやら、この地上を這いずり回って生きているうちに、子供のころには確かに持ち合わせていたはずの何かを失ってしまったようだ。
残ったのは、重くまとわりつくような疲労と無気力。夢も展望も情熱もなく、かといって悲観も絶望もなかった。
冷えて乾ききった何かの残滓。それが私の今の姿だった。
かろうじてまともな人間を演じてはいるが、わずかな表情を造ることすらひどく億劫に思える。
大学へ進学するに当たり、たくさんの人から「おめでとう」の言葉をもらった。しかし、いったいこれのどこがめでたいのか私には理解ができなかった。
大学生になったからといって何かが変わるわけでもない。ただ、依然として私はそこに在った。
それでも――。
ただ一つだけ、私の空間に新たな要素が加わっていた。
白いノート型パソコン。
まさかこれが私の世界を大きく変貌させるきっかけになろうとは、この時は思いもしていなかった。