覚めない夢
プロローグ
昔々ある病室に一人の青年が住んでいました。
彼はいつもにこやかで至って善良な人間に見えました。その姿はまさに人好きのする優しげな青年そのもの。
――ただし、外面だけを見るならば、の話ですが。
来る者は拒まず去る者は追わず。飽いたらさわやかな笑顔で酷薄に切り捨てる。絵に描いたようなろくでなしでした。
昔々ある大学に一人の学生が通っていました。
彼女は人付き合いが悪く、面白みのないくらいに真面目で勤勉な学生でした。
――ただし、外面だけを見るならば、の話ですが。
授業では最前列に陣取って熱心にノートを取るふりをしながら小説のネタを書き付けたり、ラクガキやら空想やら居眠りをしていました。
特に居眠りは達人級で、聞く価値がないと判断した講義では正しい姿勢を保ったまま瞬きをしながらうたた寝をしていたのです。
不自然な笑顔は透明な防護壁。
絵に描いたように内向的な人間でした。
そして、そんな彼らの奇妙な日常は華麗なる右ストレートで幕を開けたのでした。