政治・社会 憂さ ばなし 短編集
停電
「会社の終業が早よなったんはエエけど、こんだけ暑かったら家帰ってもエアコンつけな、やってられん」
「アンタ、節約してや。電気代、バカにならん。電力不足やゆうてるしそのうち停電になるで」
「設定温度28度ゆうけど、ああもう暑い! 1軒ぐらい温度下げとっても、大した影響ないやろ」
それぞれの家庭、どの亭主殿も同じことを考えているものである。
「あっ、停電!」
「しゃァないな、窓全開や、ロウソク、ロウソク」
ロウソクのほの明かりの中での夕食。ぼんやりと部分的に照らす光の揺らめきは、ときには幻想的な雰囲気を作り出す。
「テレビもパソコンもあかんかぁ、することないしなぁ・・・なあ、エエやろ」
「なにがぁ」
「なにがって、ほれ、エエやろ、久し振りにぃ」
「なにゆうてんのん」
「暗がりの中ですることゆうたら決まってるやろ。な、エエやろ」
「暑いのにかなわんわ。それに窓開けっ放しやから近所に筒抜けやで」
「ラジオのボリューム上げたらエエ。良夫が塾から帰らんうちに」
「塾には自家発電があるから、停電でも授業はきっちりしますって」
団地は結構、音や振動が伝わるらしい。
「お隣さん、ラジオの音大きいなァ。迷惑ちゅうこと気ィ付かんのやろか」
暗がりの中にいると神経が研ぎ澄まされてくる。
隣の住人が何をしているのか、聞き耳を立てているわけではないのだが、
「お隣さん、子供大きかったよな、おらんのやろか」
「塾に行ってやるよ、高校受験やから」
「なんや励んではるみたいやでナニ、うちも負けてられん」
「そんなんゆうても汗でネチャネチャやん、イヤやで」
「ほかにすることもない」
「そうやなァ、後で冷たいシャワーかかったらええかな」
翌年の4月から6月にかけては、ベビーラッシュとなった。
結果、経済が上向き始めたのである。
めでたし、めでたし・・・・・・
2011.6.2
作品名:政治・社会 憂さ ばなし 短編集 作家名:健忘真実