顔 下巻
気がついた中井が、大川に声を掛けるが、
大川は震えるばかりだった。
「いったい何がおこったんだ?」
其の問いかけよりは、大川の前の机、
そして其の背後に広がっている多量の鮮血。
そしてその鮮血の上に横たわる“モノ”に驚嘆した。
拘束衣を身に着けていたソレが、強引な力で。
まるで雑巾を絞るように捻りつぶされたような、
肉隗が横たわっていたのだ。
顔などは頭蓋骨が、なにか特殊な力で変形させられているような捩じれ方で。
それが、もとは人間の体だということを
察したとき、中井は吐き気がこみ上げるのを覚え、溜まらず吐いた。
しばらくして、ようやく其の眼に、生気を取り戻した大川は。
やはり、あまりの異臭のためか、別な理由からか
腹の虫がなると、腹筋が痙攣し、もどした。
吐くものが無くなると、黄色い胃液を吐いた。
それすらなくなると、なんだかわからない白い液を吐いた。
しかし、それに伴なって流れ出た熱い涙が、冷たく凍えた頬をつたうのが
まだ、自分が生きている証拠のように思えたが、
其の涙も冷気ですぐに冷たくなった。