顔 下巻
オレの顔をしたアイツは、ニヤニヤしていた。
「一之瀬克也、おまえはヒトとしての道を大きく外れた行ないをした。」
オレの顔をしたアイツがオレの声で話した。
そして二之宮の顔のオレが・・云った。
ヒトとしての道だと?
倫理の授業は、捕まってから受けるよ。
もっとも、捕まればな。
まして、ヒトでもないおまえに言われる筋合いはない。消えろ。
「倫理だと?笑わせるな。そんなものヒトが作ったものじゃないか。
私が云っているのは、ヒトと我々の境界の話だ。おまえはそれを著しく侵した。
よって、私が派遣された。おまえを我々の領域から追い出すために。」
なんだよ、ヒトが死ぬと、おまえらが出てくるのかよ。
人殺して隠れてるヤツなんか沢山いるぞ!
「馬鹿め。ヒトがヒトを殺そうが、まして何人殺そうが、
我々の知ったことではないわ。
事実、お前たちの世界では一番多く殺したものが
為政者になれるそうじゃないか。
ま、そんなことはどうでもいいことだ。」
アイツはタバコを一本取り出して、火をつけた。
紫煙が立ち上り、フィルターをヤニ歯で噛んだ。
「まぁ、ゆとり教育のせいかな。
ゆとりがあっても詰め込むものは詰めこまないとダメなんだよな。
我々と、おまえらヒトとの間には長い年月を掛けて結ばれた
不文律が存在してきた。共存共栄のためにな。」