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山を翔けた青春

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 チャンラ峰遠征を目指す笹木と山下らは、着々と準備を推し進めていた。資金集めの一環としてTシャツの販売もした。トレーニングは個人で努めていかなければならない。一にも二にも体力である。


 1982年、島根県で国民体育大会があった。“くにびき国体”という。
 山下と岡田、そして大学山岳部の中島が選手として出場した。中島は、天気図の作成や踏査のチェックポイントを地図に記入していくのに欠かせない存在である。

 会社勤めの山下と岡田は金曜日の夜電車に乗り、現地での実地トレーニングにしばしば出かけた。
 電車が余部鉄橋を渡っている時、
「小さい時、お母ちゃんと手ェつないで妹と3人、ここらのトンネル、歩いたことあるのん覚えてるわ」
 山下は、兵庫県香住町で幼少期を過ごしていた。
「ふーん」
 岡田はそう言っただけで暗い窓外に目をやり、そして閉じた。


 10月4日から始まった縦走競技1日目。
 8歳年上で口うるさいふたりに前後を挟まれていた中島は、萎縮していつもの調子が出ない。
 胸突く坂道をハアハア登っている時、絶えず後ろにいる山下から声がとんできた。
「遅いよー! もっと速く!」
「ペース上げて!」
先頭を行く岡田は時々
「うるさい!」
とやり返した。
 立ち止まって後ろを振り返った時、山下は片鼻を押さえて、フンッ! と飛ばしたところ、視線が合った。
「あー、すっきりした。中島さん、ひとり言やから気にせんといて、自分にハッパ掛けてるだけやから」
 山下のひとり言は続いていた。
 汗をかく速さで歩いていると鼻水が出てくる。岡田も片鼻を押さえて、フンッ!・・・ 袖口でぬぐった。
「年季がいるんやでー」
と山下。
 山下は、大会社で事務を執っている。岡田にとってはその姿がどうしても想像できない。

 2日目の縦走でも中島の調子は戻らず、僅差で地元の島根に負けた。毎年地元が優勝するので、打倒!島根、が参加者すべての目標だ。
 中島は食欲もなく、残したおかずは山下と岡田が平らげた。ふたりはいつもお腹を空かせていた。
 
 3日目の登攀競技でも中島のミスがあり、3位。

 4日目の踏査競技は、登りから飛ばしに飛ばして、平坦地に出ると走った。
「打倒島根やー、中島、荷物置いて先に走り〜〜」
 山下と岡田はその荷を両側から持って追いかけた。
 ゴール前に設問用紙がおかれ、記入しなくてはならない。10問ある。
「これの答えが分かりません」
 ふたりがのぞきこんで、岡田が答えた。
「ひのき、ちゃう?」

 それだけが間違っていて、3位であった。


 山下と岡田にとっては少し物足りなさがあり、翌日、審判員として参加していた竹田と3人広島へ向かい、三倉岳という岩を登って帰ることにした。
 広島山の会所属で、広島のコーチとして来ていた八橋の誘いでもあった。
作品名:山を翔けた青春 作家名:健忘真実