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アリス・スターズ
アリス・スターズ
novelistID. 204
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妊婦アリス・スターズの話

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 翌日。平日なので、当然仕事だ。
 病院の後に会社に連絡した時、休日出勤をどうするかと質問されたので、やめておいたほうがいいかも知れないと回答したのだが、出勤したときにはもう勤務表が書き変わっていた。アリスが出勤するようになっていたところが、全て他の人に変わっていたのだ。確かに勤務表は16日からのものが12日に出来たばかりだったが、そんなにすぐに変えられるとは思ってもいなかった。仕事内容も、普段していた犬舎の清掃、給餌、出産補助等は免除。代わりに、犬の体重や心電図の登録、簡単な血液検査等、基本的にデスクワークを受け持つようになった。
 場長のヒース・モデリオン、事務員のソフィア・サークとアリスの3人で、これからのことについて打ち合わせを行う。会社の規則では、妊婦検診は特別休暇で受けられるという。それからつわり等の体調不良も、病院で書いてもらう「母性健康管理指導事項連絡カード」があれば特別休暇になるそうだ。
 ヒースは3人の男の子――と言っても3人とも高校を卒業しているが――の父、ソフィアも3回の出産経験があり、さらにはアリスが不妊治療をしていたことも知っているので、これでもかと言うほど気を遣ってくれているようだ。
「つわりでえらい時は休んでもいいけぇね。」
 自らもつわりで苦しんだ経験のあるソフィアがそう言った。
 アリスは子供が生まれる頃に仕事を辞めると、前々から職場に伝えていた。そのため、27日ぶん残った有給も使える。指導事項連絡カードがないうちもなんとかなりそうだ。

 10月19日。
 さっそく、それはやってきた。前日の夜に予感はしていたが、いつもは左向きでないと寝られないのが、その日は右向きでないと眠れなかった。
(いや、まさか2回目に病院に行く前にやってくるとは……。)
 そう、つわりだ。と思ったのは、ピルを飲んだ経験があるからこそだった。
 ピルの副作用はつわりと似ていると言われる。アリスの今の症状は胃の不快感と吐き気。まさに治療の休憩のために飲んでいたピルの副作用と同じものだった。少し違うのは、ピルの時よりは症状が強いことと、朝に炊けるように予約していたご飯の匂いが気になること。あとは、気持ち悪さなのか、血圧のせいか、それとも貧血か――頭がふらふらで、立っているのが辛いこと。
(こりゃ、仕事に行ってもなんもできそうにないな……。)
 弁当を作ることもままならず、炊けたご飯はおむすびにしてクロエに持たせ、残りを冷凍しておくことにした。クロエを見送って、会社の人があらかた揃う7時55分を目安に電話をかける。本格的につわりが来始めたら、こういう機会も増えるんだろうな、と思いながら。
 少しくらいは動けるかも知れないが、無理はしないでおこうと決め、その日は1日のほとんどを布団の中で過ごした。