妊婦アリス・スターズの話
翌日は体育の日だ。体温は36.88。
(おぉ、高い。検査予定は明日か……。)
生理は今日も来なかった。
10月12日。運命の検査予定日。
朝起きて体温を測る。36.82。
(ちょっと下がったけど、悪くない。)
いつものように足の指を動かして血液を巡らせながら、クロエを起こして1階に下りる。妊娠検査薬は、リビングのオーブンレンジの横に置いてある。
「あれ、置いてるのチェックワンファストだったか。」
クリアブルーは名前の通り箱が青いが、そこにあったのは緑の箱。チェックワンファストの箱だ。2本入りだが、1本は以前使ったので1本だけ残っている。当日から検査できるものだから、1週間後でも当然検査できる。単にHCGの検知能力が違うだけなのだから。どうせ残しておいても使用期限が過ぎるだけなので、それを使うことにしてトイレに入る。
検査は簡単。検査薬の指定の場所に尿をかけるだけだ。するとどうだろう。
(えっ、1分で結果が出るとはいえ、こんな早うでていいん?)
もう「判定」の窓のところにサインが出始めていた。ここにラインが出るということは――
(妊娠判定「陽性」……赤ちゃん、おる……!)
結果が見えないように、検査薬の入っていたアルミ袋に隠してからトイレを出る。2人分の弁当を作り、その間にクロエが準備していたトーストを前に。
「検査薬やったん?」
クロエが聞いてくるので、アルミ袋ごと検査薬を机の上に置く。
「もう結果も出とるよ。じゃん!」
掛け声と共に、アルミ袋から陽性反応の出たチェックワンファストを取り出してクロエに見せた。
「……。」
なぜか、固まるクロエ。車載用のはずがダイニングテーブルの上に置かれている小さなテレビの時間は、7時12分。毎朝見ているニュース番組が静寂を許さない。
「……えっ、これ、」
「うん。赤ちゃんおるよ。」
まぎれもない事実。注射液は反応しない時期。生理は来ていない。体温は典型的な高温。生理予定日からは1週間が過ぎた。そして検査薬の陽性。
「――いや、うれしいんじゃけど、頭呆然としとる。妊娠してるってことよな?」
「だから、そうじゃって。」
何度もクロエは確認を繰り返す。その度にアリスは肯定する。
トーストに手を付け始めたときには、すっかり冷めてしまっていた。
作品名:妊婦アリス・スターズの話 作家名:アリス・スターズ