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アリス・スターズ
アリス・スターズ
novelistID. 204
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妊婦アリス・スターズの話

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2011年3月11日


 この日アリスは張り切っていた。
 右手に古歯ブラシ、左手にはスプレー容器に入れたセスキ炭酸ソーダ溶液。風呂場用のビニール靴を履いて、せっせと風呂場タイルの目を磨いていた。カビ落としの洗剤を使ってもいいのだが、あえて手作業で落とすことにしたのだ。
 2時の作業開始からおよそ1時間。
「ん?」
 アリスがズボンのポケットに入れていた携帯が、メールの着信を告げる。
(珍しい時間に来たなー。まぁ、たぶんauショッピングモールのメルマガじゃろうけど。)
 あと30分もすれば作業が終わるだろうので、チェックせず作業を続行した。

 作業が終了し、手を洗って軽く水分補給してから、先程届いたメールを確認する。
「……え?セコム?」
 アリスは会社で、セコムの安否確認サービスに登録している。震度5以上の地震があった時に社員の携帯にメールが届き、それに返信することで安否が確認できる、というものだと記憶している。
(どうせまたそんな――)
 たいした事ないものだろう、と思いメールを開く。そこには――
「はぁっ!?」
“2011年3月11日 14時46分 東北地方 震度7以上 の地震が発生しました”
「ちょっ、うそじゃけぇ!」
 メールが届いた時間は、地震発生から15分後の14時59分。今は15時半。とにかくメールに返信し、急いで寝室に駆け上がる。以前はリビングに置いていたが、寝室に持って上がった車載用の小さなテレビのコンセントを差し込み、電源を入れた。映し出されるのは、地震の情報テロップが画面上部と左側に表示された特別番組。
 『たいした事ない』とは正反対の事象が、小さなテレビの向こう側で繰り広げられていた。

 アリスは小学2年生の時、阪神淡路大震災を経験している。
 友人の家が家事で消失し、その時5年生だった先輩――名前も顔も知らないが――が亡くなったと聞いた。学校は2階の床が一部抜けた。崩壊した伊丹駅を見に行ったこともある。
 一番被害が大きかった神戸にいたわけではなかったが、当時のことを思い出し、身震いした。