妊婦アリス・スターズの話
2011年2月5日
もうスプリングウィメンズクリニックの門も慣れたものだ。
受付で母子手帳、診察券、保険証、検診の補助券を渡し、尿検査の採尿をして、3列のソファーの一番入口側に座って呼ばれるのを待つ。今日もクロエが隣に座っている。
呼ばれるとDVDを渡してから体重測定だ。体重計の示した数値は56.0kg。
(おぉ、前よりめっちゃ増えとるし。)
前回の検診から2.3kgも増えている計算だ。普通なら注意が入る増え様だが、
「まぁ、今が一番増える時期じゃけぇねー。」
看護師がこの一言を言っただけで終わりだった。
(えー、そんな適当でええん?)
何はともあれ、体重を測り終えた後は血圧の測定。上が97、下が60と相変わらずの低さだ。それから、今日は貧血の検査があるということで採血も行った。
またしばらくして診察室に呼ばれる。クロエと一緒に入室すると、やはりまずは腹部エコーからだ。3度目となり手順も板についてきたアリスは、素早く腹部を出してベッドに横になる。アイリーン先生が腹囲と子宮底長を測定し、プローブにゼリーを乗せながら聞いてきた。
「前回、性別分からなかったんよね?」
「はい、そうですね。」
頷きながら答えるアリスのお腹に、ゼリーごとプローブが押し当てられる。少し捜せば、すぐにシンシアの足が見つかった。前回と違い、シンシアは眠っているようで動かない。エコーの見方はだいたい理解できてきたアリスにも、性別の判断はまだできないが、とりあえず今画面に映っているのはシンシアの足を下から見た図だ。画面に矢印が表示される。
「女の子でいいと思いますよー。」
2本見える足の骨の間あたりを矢印で指しながら。
「ここにスリットがありますね。おちんちんもないようですので。」
確かによく見ると、シンシアのお尻のところに白い筋のようなものが見える。男の子であればこの白い筋はなく、足側に突起が見えるのだろう。
(あの夢……本当じゃったん?)
シンシアは本当に「シンシア」だった。
作品名:妊婦アリス・スターズの話 作家名:アリス・スターズ