妊婦アリス・スターズの話
2011年1月16日
普段なら日曜日のこんな時間に起きることはない。
雪の降る朝8時、アリスは家のすぐ近くにある集会所にいた。今日は地区のとんど祭りだ。クロエは少し遅れて出てきて、外で手伝いをするらしい。女性は早めに集まって、とんどの時に振舞う豚汁やぜんざいを作ることになっている。
「おはようございまーす。」
集まっているのはほとんどがアリスより干支が1回り以上違うおばさん達だ。おそらくほぼ全員が妊娠経験者で、年をとると程度の差はあれど世話焼きになるのか、アリスともう1人の妊婦をその中に放り込めばやはり体調には相当気を遣われた。何度かはさまれた休憩の時も、おばさん達はコーヒーを飲んでいる中、アリス達にはほうじ茶が出されたのだった。
そんなこんなでアリスがやった手伝いは、合わせて2升は超えるだろう量のご飯を3等分し、それぞれ五目、わかめ、ゆかりの混ぜご飯にしたものを6人がかりでおむすびにしたのと、それに添える漬物を皿に盛ったのと、つきたての餅を取り分けて丸めたのと、ぜんざいの配膳だ。とんどが後半になるにつれてどんどん忙しくなり、食べる暇がない時もあったが、それでも餅が胃に効いたのか、動いているから気にならなかったのかは分からないが、量が足りないと感じることはなかった。
メニューは豚汁が2種――豚肉のものとぼたん肉のもの――、杵つき餅にはおろしポン酢ときな粉、ぜんざい、3種のおむすび、炭火で焼いたぼたん肉やウインナーや牡蠣。外で作業していた男性には酒も振舞われた。
とんどがお開きになる頃、残った食材を等分して女性陣で分けることになった。
豚汁に使った赤味噌――どうやら地区の人の自家製らしい――や、残った豚汁や大根おろし、おむすびが4つ、ゆかりのふりかけ、数本の缶ビールを受け取ったアリスは、荷物を無理やりクロエに押し付け、集会所を後にした。
「どうしようか、ビール?」
他のものはどうにでもなるが、クロエはアルコールを摂取すると持病の喘息が出るし、アリスは妊婦のうえもともとビールが苦手なので、缶ビールの処分に困ることになる。アリスの実家に持っていっても飲み手がいないし、最終的にはフィノンに届けることになった。
作品名:妊婦アリス・スターズの話 作家名:アリス・スターズ