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アリス・スターズ
アリス・スターズ
novelistID. 204
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妊婦アリス・スターズの話

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 アリスは不妊治療をしている。治療を始めた時の生理初日が2008年10月6日だったので、明日でちょうど2年になる。
 19歳の時に多嚢胞性卵巣症候群と診断され、カウフマン療法で生理を起こしてきた。この病気で一般的に行われている治療だ。ただ、これは不妊症としての治療にはならない。来ない生理を来させるため、あわよくば多嚢胞の症状が改善すれば、というものだ。
 クロエと結婚し、3ヶ月はピルで卵巣の活動を抑える。不妊治療として行った治療は排卵誘発とタイミング法。ただ、このうちの排卵誘発がやっかいだった。
 最初に試したのが内服の排卵誘発剤「クロミッド」。排卵誘発をするなら、必ず一度は使う薬だ。最初は1日1錠。最終的には1日3錠まで増やして様子を見る。ただ、アリスの場合この薬ではほとんどが無反応、または多嚢胞の症状が出てくるため、成功したのは1錠から2錠に増やした2周期目だけだった。確かにこの薬は排卵誘発入門編と言うだけあって効果が弱いものではあったが、まさかそこまで効かないとは、2周期目の時点では考えられなかった。
 次に試したのが筋肉注射の排卵誘発剤「HMG」。注射用ヒト下垂体性性腺刺激ホルモン剤HMG、というのが正式名称ではあるが、基本的にHMGと略される。この薬は少し強いもののため、効果が期待された。しかし、若さゆえか――とは婦人科の先生の言葉だ――こちらは反応が良すぎた。危うく卵巣過剰刺激症候群という別の症状が起こるところだったのだ。卵巣過剰刺激は、排卵誘発をしている限りは効果の弱いクロミッドでも起こることがあるものだが、特に多嚢胞性卵巣の人はこのリスクが高いらしい。これが重度になると、腹水や胸水がたまって命に関わることもあるのだ。幸い起きることはなかったが、それを避けるため次は単位を減らした。そうすると今度は無反応。
 つまり、今までの方法は無反応か過剰反応しかなかったのだ。

 それが、革命を迎えたのが2010年の春。アリスの通う婦人科が「フォリスチムペン」を導入することになった。
 フォリスチムは注射液だが、これはHMGと違い皮下注射だ。それと、HMGより効果が少し弱い。女性のホルモンにはFSHとLHの2種類があるが、FSHは卵胞――卵子の基――を育てるのに必要なもので、排卵誘発もこれを出すために脳下垂体を刺激するものとFSHを直接補充するものがメインになる。HMGはヒトの尿から作られているらしい製剤で、FSHもLHも両方が含まれている。フォリスチムは純粋なFSHだ。HMGに入っていてフォリスチムに入っていないLHは、アリスの体内に十分すぎる程有り余っている。そもそも、多嚢胞性卵巣症候群の人がホルモン値を測定すると、だいたいがFSHよりLHが高くなる。ちなみに、LHは排卵をさせるのに必要なものだ。いわゆる排卵検査薬というものは、LHを検知するものである。
 さてこのフォリスチム。素人でも自分で注射が打てるように設計されているため、自己注射などと呼ばれている。つまり、注射器本体と針、注射液、消毒用アルコール。これだけあれば自宅でも注射が打てるという、遠距離を通うアリスにはありがたいものだった。病院が導入して初めて使う患者がアリスだった――使用法のDVDはデモ器に付いていたものだった――ため、会計等時間がかかる日もあったが、この薬はしっかりいい反応を示した。2度目の排卵は無事成功。だが、妊娠には至らず。フォリスチムの2周期目はうまく反応しなかったが、1ヶ月空けて臨んだ3周期目も無事排卵にこぎつけた。
 その結果、生理が起きる予定だった日が今日、2010年10月5日と言う日だ。