妊婦アリス・スターズの話
2011年1月5日
年末に、クロエが唐突に言い出した。
「あ、1月5日から職場離脱だから。」
「は?」
職場離脱。農協が監査のために行っているもので、順番に1週間ずつの休みが強制的に与えられる。ちょうどそれがクロエの番になったらしく、年明けすぐ1月5日から1週間、文字通り休みが降って湧いてきたのだ。
ということで、職場離脱初日のこの日、アリス達はとあるデパートに来ていた。
このデパートにはペットショップがあり、ここに来るとアリスは必ずそこへ行きインコの雛を見て癒されるのだ。当然その日もペットショップに入る。ガラスの水槽の中には3羽のセキセイインコの雛がいた。見立てによるとグレーのオパーリン、パステルカラーレインボー、ルチノーだろうか。長年インコを飼ってきた経験から、詳しい種類とまではいかないが分かるようになっていた。水槽に指を近付けると、3羽のうち2羽がアリスの指を追いかけてきた。
「かわえぇなぁー。」
隣でクロエも癒されている。そもそもクロエは動物好きであるのだが、片っ端から犬に嫌われる――じゅんちゃんも例外ではない――。うんぜんはそこまでクロエを嫌っていないからなのか、クロエも少しずつインコの魅力に惹かれていたようだ。
ペットショップを出て、デパートで買い物をする。アリスは妊婦帯を2枚購入した。
もう一度ペットショップに舞い戻る。すると、クロエがどこかに電話をかけ始める。しばらくして通話が終わると、こう言った。
「インコ、飼っても大丈夫なんて。」
まったく予想外の台詞が飛んできた。以前も記述した通り、アリスの家は市営住宅。ペットは禁止だ。なのに、インコは過去に許可を出した例があるらしく大丈夫とのこと。
「えー、インコってペットやろ?なんでじゃろうね?」
「まーええやんか。」
若干市営住宅の「ペット」の概念に疑問を覚えつつ、アリス達は3羽の雛のうち、パステルカラーレインボーの子を家に迎えることにした。店員が心底丁寧に健康チェックなどしてくれたが、アリスは今までに何羽もインコを飼ってきた上、自家繁殖もしたことがある――その時生まれたのがうんぜんだ――ので勝手は分かっている。一緒に粟玉とペットヒーターも購入し、小さな紙箱に入れられた雛を受け取った。
デミ子に乗り込み、窓がちゃんと閉まっていることを確認してから雛を箱から出して手の中に入れてやる。顔が黄色、首の後ろに少し白、首から下は淡い水色。話によると12月初めに生まれたとのことで、素人目には性別はまだ分からない。雛のぬくもりが手の平に伝わる。雛もアリスの手の中で安心したのかじっとしていた。
その後の会話の流れで、雛の名前は「レン」に決まった。
作品名:妊婦アリス・スターズの話 作家名:アリス・スターズ