妊婦アリス・スターズの話
2010年12月27日
朝。目が覚めたのは7時過ぎだ。クロエもまだ布団の中にいる。
なんとか体を起こそうとするが、全身のだるさで思うようにいかない。仕方ないのでクロエがトイレに降りた後も、しばらく布団の中にいることにした。
すると。
(ん?)
何か、胃が動いたような感覚が下腹部にあった。例えるならば「お腹が空いた状態に水かお茶を多めに飲んだときに胃のあたりで時々ある感覚がお腹であった感じ」だ。その衝撃の付近に意識を集中してみる。もう一度、同じ衝撃があった。少し時間を置いてもう一度。それからはいくら集中しても衝撃はなかった。
(胎動……にしては早いか。まだ16週じゃし。)
今日は16週2日。初めての妊娠で胎動を感じ始めるのはだいたい20週と聞いていたから、この時点では胎動とは思えなかった。
その日の夜に布団に入った時も同じような衝撃を感じ、再びお腹に意識を集中する。今度は深呼吸も一緒にしてみる。これが内臓の動きなら、呼吸の途中で動くことはないからだ。息を吸う。吐く。もう一度吸って、衝撃。吐く。また吸う。今度は吐いている途中に衝撃が加わった。
(いやいや、まじか?)
胎内から伝わる衝撃。シンシアの生命の主張。
(シンシア、動いとるん?ほんまに?)
夜になってようやく、アリスはそれを胎動だと認識した。
普通ならこんなに早く胎動を感じることはないのかも知れない。初めての妊娠ならなおさらだ。
それでもアリスがこんなに早く認識できたのは、安静にしている時間が長いこと、不妊治療後の妊娠で喜びが大きかったこと、胎児名をつけていることで母性が強かったこと――その他もろもろの理由があったからだろう。
翌日の夜にクロエにそれを伝えると、
「マジで?」
と言いながらアリスのお腹に触れた。だが、まだアリスですら集中しないと分からない胎動が、外側のクロエに分かるはずもない。
「今は動いちょらんよ。それと、たぶんまだ外からじゃ分からん。」
「そーかい。いつ頃になったら分かるん?」
「まだ先じゃろう。」
作品名:妊婦アリス・スターズの話 作家名:アリス・スターズ