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アリス・スターズ
アリス・スターズ
novelistID. 204
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妊婦アリス・スターズの話

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 プローブをアリスの腹部に押し当てたまま、アイリーン先生がなにやら機械を操作し始める。左右2分割された画面の左側は先程まで見ていたエコーの画面。右側は今までに見たことのない、肌色の画面が映し出された。両方の画面を並べた状態で向きや映り加減を調整すると、今度は一面に肌色の画面を表示させる。
 過去に話には聞いたことがあった。これが3Dエコーなのだろう。現に肌色の画面に映ったシンシアは立体的に見える。
 アイリーン先生が矢印を表示させる。経膣エコーにも普通の2Dエコーにもある機能だが、この3Dエコーの矢印は黄色い。
「これが頭、こう手があって、背中で、足。」
 映されたシンシアを矢印でなぞりながら、説明していく。白黒の2Dエコーよりはっきりと、分かりにくかった足まで確認できた。背中を丸め足を曲げて、今はちょうど眠っているときのようだ。
 すると、アイリーン先生がこう言った。
「動けばもう少しそれらしく見えるんだけどねー。」
 言いながら、プローブでアリスのお腹を刺激し始める。その刺激に合わせて、若干画面が歪む。少しそれを続けると、シンシアが反応を示した。
 顔をこすると、左手で背中側に腕を伸ばす。足を伸ばしたり、明らかに不機嫌そうなその行動は、朝に無理やり起こされた時のアリスによく似ている。当然のことなのだが、やっぱり自分の子供なんだとより実感することが出来た。

 お腹に残ったゼリーを拭き取り、服を整えてベッドから降りる。いつの間にか印刷してあった2Dエコーの写真が机の上に置いてあった。
 それからは近況を聞かれる。アリスは吐き気がいつしか嘔吐に変わったつわりのことと一緒に、前々日にあった症状のことを話した。とにかく、あの日はめまいが酷かった。頭の向きを変えるだけで視界がぐるぐると回ったのだから。しかし、昨日からはそれがない。結局なんだったのかは分からないが、症状がなくなったので何ともいえない。とりあえずつわりに関しては、また母性健康管理指導事項連絡カードを書いてもらった。その日の支払いの1050円は、このカードの値段なのだろう。

 病院を出ると、義両親が戻ってきていた。その後、3人で近くのファミレスに行き、定食を食べて家に帰ってきた。つわりで気分が悪くなってからでは遅いからだ。
 しかし、アリスはこう考える。
「まぁ、つわりは必要なえらさじゃしね。ピルの理不尽なえらさに比べたら数倍ましじゃ。」
 確かに行動はあまりできないが、不妊治療の辛さ、あの授かることの出来なかった日々の心苦しさ、治療に使った薬の副作用に比べたら喜ばしいことなのだ。いつ終わるか分からなかった不妊治療より、どれだけ長くてもシンシアが生まれるまでしか続かないつわりが辛いわけがないのだ。
 そうして、アリスはつわりを乗り越えていく。