妊婦アリス・スターズの話
2010年12月8日
いよいよ酷くなってきたつわりで動けない日も多く、以前より出勤日数は格段に減っている。数えてみると、まだ12月度(11月16日〜12月15日)は6日間しか出勤していない。それでも何も言われないのは妊婦ゆえだろうか。
何はともあれ、今日は妊婦検診の日だ。前々日に気になる症状があったため、クロエの両親――つまりアリスの義両親――に病院まで連れて行ってもらうことになった。
義父のカール、義母のリズは典型的な晩婚高齢出産で、クロエはリズが40歳の時の息子だ。つまり定年を超えていて、今は週に3回から4回も出かけるほど気ままに生きているという。そのうちの1日をアリスのために空けることも容易なのだ。
病院に着くと、義両親は暇を潰しにどこかへ出かけていった。アリスは受付に必要なものを渡し、採尿を済ませてしばし待合室で待つ。呼ばれるとまずは体重測定と血圧測定。体重はつわりのせいか、51.9kgと少し減っていた。血圧は前回の結果があるからか、最高血圧が90を切っていても看護師は何も言ってこない。
その後、診察室に通されるとアイリーン先生が入って右側を指した。そこには診察用のベッドが頭の部分を起こした状態で置いてある。
(あ、まさか――)
アリスはベッドサイドに置いてある機械で確信する。今日から経膣エコーではなく、腹部エコーなのだ。
最初に腹部エコーを体験したのは19歳になる前。フレンディアクリニックで多嚢胞性卵巣の診断を受けたときだ。性交渉未経験だったため腹部エコーで検査したらしいが、それでも分かるほどアリスのネックレスサイン――多嚢胞性卵巣の典型的な症状――は酷かった。クロエと結婚してからは経膣エコーを使っていて、それより前に1年以上エコーを取っていない時期があるため、かれこれ腹部エコーは3年半振りくらいになるのではないだろうか。
とりあえず未経験ではないので要領は分かる。まずはベッドに上がって、ほんの少しだけふくらみが分かるようになった腹部を露出させる。起こしてあった頭の部分が倒れると、アイリーン先生がアリスの腹部にメジャーを巻きつけた。この数値は母子手帳に書き込むところがあったはずだ。それから、プローブ――後に調べたところ、エコーの時に押し当てるあの棒のことをこう呼ぶらしい――に超音波検査用のゼリーを乗せる。検査をスムーズにするためのものだが、アリスは似たようなものを、会社で犬の心電図測定をする時に使っていた。
プローブをゼリーごとアリスの腹部に押し当てると、ひんやりとした感覚と同時に、機械の液晶に模様が映し出された。経膣エコーより不鮮明で範囲も狭いが、少し調整するとそこにシンシアの頭が映った。それも、前より格段に大きくなっているし、手の位置もしっかりと分かる。頭の耳から耳の長さは2.5cm、なかなかうまい具合に映ってくれなかったが、頭の先からお尻の先までは6.15cmくらいあるようだ。当然成長していることにも喜びがある。それよりもアリスは、測るまでの途中経過、つまり映り加減を調整している時に起きたことに感動していた。
(動いた……!)
そう、シンシアが自分の力で動いたのだ。ほんの一瞬、それも1回だけだったが、手を動かしたのがはっきりと見えたのだ。
作品名:妊婦アリス・スターズの話 作家名:アリス・スターズ