妊婦アリス・スターズの話
2010年10月27日
朝クロエを見送ってから、病院に向かう。時間は11時30分の10分前に着けばいい。いつも出かける時に持っていくショルダーバッグの中身は、いつものおでかけセット、基礎体温表、紹介状だ。愛車タント君に乗って、9時半頃家を出た。
まずは銀行に寄ってお金をおろしておく。まだ母子手帳をもらっていないため、妊婦検診の補助券がないので必要になるからだ。それから病院に向かおうと思ったが、まだ時間は45分近く早い。早目とはいえ早く出すぎたようだ。仕方ないので病院から5分ほど離れた書店で時間をつぶし、時間通りに病院へ向かった。
スプリングウィメンズクリニックは、フレンディアクリニックと同じく夫婦で産婦人科をしている。紹介状に書いてある名前は、妻のアイリーン先生のほうだ。駐車場がちょうど良く軽専用が1台分空いていたので、そこにタント君を駐車する。初めて見る自動ドアを潜り抜け、待合室に入った。左を向くと、そこにあったのはベビーサークル。3列に並べられたソファー。右側にはお手洗いと12周年記念と書かれた花、それから受付。さらに奥に行くと診察室の入り口が2つ。そこからさらに奥に行けるようなので、そこが入院施設なのだろうと判断する。
まず受付に保険証と紹介状を渡す。問診表を受け取り、ベビーサークルに一番近いソファーに座ってそれを書き始める。受付にいるのはほとんどが妊婦で、それ以外は付き添いの夫か母親か、上の子。現にベビーサークルでは2、3歳と思われる3人の子供が遊んでいる。
問診表には氏名、生年月日、住所と電話番号などの情報から始まり、どうしてこの病院に来たのか、最終生理開始日などを書くようになっている。そしていつもアリスは、この項目で手が止まるのだ。
(生理は順調か……ねぇ。)
19歳の時から4年半、ずっと薬で生理を起こしてきたのだ。順調に生理が来ていると言えばそうなのだが、薬で起こした生理は順調と言っていいのだろうか。
結局そこは空白のまま、受付に返すことにした。診察の時に先生に伝えたら問題ないだろう。
それから呼ばれるまでは、ベビーサークルの子供達を見ながら待つ。だいぶ時間が経って、ようやく名前を呼ばれたので、手前側の診察室に入った。
アイリーン・スプリング先生は少し高齢な先生だった。そういえば中学校の時の事務員さんに似ているな、とどうでもいいことを考える。
対面の椅子に座り、簡単に不妊治療のことを話す。どこまで紹介状に書いてあるかは分からないが、とりあえず基礎体温表は一緒に持っていけと言われていたので、それを提出した。問題の「生理は順調か」の欄は順調、一緒に「内服」と書き加えることで何とかなったようだ。
「今内診空いてる?」
アイリーン先生が看護師に声をかける。空いていますよ、とのことで
「じゃあ、内診しましょうか。そこの扉から入ってくださいね。」
と言われた。入った時は気が付かなかったが、アリスのすぐ左には扉があった。
扉を開けるとそこには脱衣かごと小さなマットとスリッパ。それからティッシュ箱とゴミ箱、内診で出血した時用にかナプキン。すぐ右側にはカーテンがかけてある。対面にはもう1つ扉があり、その向こうがもう1つの診察室なのだろう。
内診の準備は慣れている。素早く準備を済ませてスリッパに履き替え、カーテンの向こうに足を踏み入れた。
作品名:妊婦アリス・スターズの話 作家名:アリス・スターズ