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アリス・スターズ
アリス・スターズ
novelistID. 204
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妊婦アリス・スターズの話

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 2日後。
 体調も良好な土曜日、休日のアリスにしては珍しく早起きをしていた。時刻は朝の9時。フレンディアクリニックで書いてもらった紹介状と電話帳を前に、左手には入籍した日にクロエと同じ機種に変えた白い携帯電話。
 クロエはいない。毎年この時期に、農協の検定のようなものが行われるのだが、その中に簿記の試験があり、それを受けに行っている。その関係で、朝から小郡まで行かなければならなかったのだ。農協職員は大変なようである。
 農協と言えば今はちょうど米の季節。毎年田植えと稲刈りの時期は、クロエが腰を痛めて帰ってくるのが恒例となっている。今年の米は質があまり良くないらしいが、家はまだ古米が余っているため、新米を食べるのはもう少し先の話になる。
(まぁ、今はそこまで「ご飯」にがっつくことはないんじゃけど。)
 考え事をしながら、時を待つ。開いた電話帳は「スプリングウィメンズクリニック」のところだ。携帯の液晶にも同じ番号が表示されている。受話器ボタンを押して発信、左の耳に受話器を当てる。
(……まだ話し中か。)
 有名な病院とは知っていた。10分ごとに施行3回目、いまだ電話はつながらない。もう10分待ち、また同じ番号に電話をかける。

(お、つながった。)
 つながったかと思うと、相手が電話に出るのは早かった。
『はい、スプリングウィメンズクリニックです。』
「あ、えーと、妊婦検診の予約をお願いしたいんですけど。」
 口に出して、あぁそういえば次からは「妊婦」検診なんだと実感する。日付は10月27日、時間は11時30分を指定した。
『こちらは初めてですか?』
「はい。」
『妊娠検査薬は試されましたか?』
「あ、今までフレンディアクリニックさんで不妊治療してて、妊娠判定をいただきました。今日で7週……になると思います。」
『紹介状はお持ちですか?』
「はい。」
『宛先はどちらになっているでしょうか?』
「えーと、アイリーン・スプリング先生?になってます。」
『かしこまりました。では、保険証と、紹介状と、母子手帳をお持ちになって――』
「あ、母子手帳はそちらで指示が出てからもらいに行くようにと言われてるんですけど。」
『それなら、保険証と、紹介状をお持ちになって、時間の10分前までに受付にお越しください。』
「分かりました。」

 電話を切る。時間にして2分程の通話だった。
(あー、妊婦検診かー……。)
 まだ変わったことはつわりがあるだけであり、実感が薄いのかも知れない。しかし、お腹の中にはもう生命が宿っているのだ。しかも自分で心臓を動かし、日々成長している生命が。お腹を優しく撫でて、呟いた。
「ママに、なったんやなー。」
 言うと、自然に笑顔になれた。