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アリス・スターズ
アリス・スターズ
novelistID. 204
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妊婦アリス・スターズの話

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 1階の待合室に下りる。クロエは待合室の角のほうでうたた寝をしているようだった。軽くつついて起こしてみる。
「おーい、終わったよ。よう寝ちょったね。」
「おぉ、終わったかい。」
 それから、上でもらったばかりの写真を見せる。
「ほれ。」
 軽く説明すると、感激した様子を表した。父親の自覚と言うのは生まれるまで湧きにくいとはよく聞くが、クロエに関してはアリスは心配していなかった。クロエとその兄に甘い、その地域で有名なほど過保護な義母を見てきているし、本人も「俺は絶対親バカになるじゃろうのー」と度々言ってきたからだ。そもそもクロエは子供好きでもある。
「心拍も確認できた。最高の誕生日プレゼントになったじゃろ?」
「あぁ、そうやね。」
 そう言って、ふたりで微笑みあった。

 フレンディアクリニックでの最後の会計を済ませる。しばらく使うことのない診察券を、お気に入りのブランドのマルチケースにしまった。
 ふたりでデミ子に乗り込む。クロエが運転席、アリスが助手席だ。
「あー、やっとこの日が来たね。」
「そうよのー。」
「まさか今日心拍が確認できるとは思っちょらんかったんじゃけどね。」
「そうなん?」
「だって、心拍が確認できるんはだいたい8週くらいらしいけぇ。」
「そうなんやなー。」
 しばし、赤ちゃんがやってきた喜びをかみ締める。そこでアリスの脳内に、先程マリア先生に言われたばかりの言葉がよみがえった。

「おめでとう。……よかったねー。」

 10月21日、命の鼓動を「見た」その日、彼女は「母」になった。