日向に降る雪
気づくと、先ほどまでいた何の変哲もない私の部屋だった。しかし、この手に残る感触は紛い物ではない。無論、頬に残る痛みも……だ。私は確実に時間と、それから空間を移動した。
ふむ、と思案にふけようと思い、思案にふけるならばコーヒーが必要だということで、台所に向かったところ、私の携帯が自己主張を始めた。びくり、と身体が小さく震えた。先ほどのメーリングリストが思い起こされる。
「雪村さんが君を探している。何かしたのか?」
が、おそるおそる開いたメールは、予想とは違うものだった。友人の一人からのその一報は、私の意識を“30分前”に引き戻した。なるほど、未来は変わったらしい。なんともまずい展開の模様だが……。多分、雪村さんは先ほどのセクハラもどきのことで私を探しているのだろう。さすがに雪村さんにそのように思われるのは好ましくない。いやいや、それよりも彼女を辱めたことを謝罪しなくてはならないのだろうか。
「……ふむ」
そこで私は再び机の前に腰を下ろした。そして、懐中時計の針を30分前にまき戻したのである。私の意識は、むにょりと揺れた。