日向に降る雪
「ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
という地獄の底から聞こえてきた断末魔の様な叫び声を頭上に聞いた。頭上ということは地獄からではなく天国から聞こえたものではなかろうか。しかし、天国から届いた声が、このような悪い意味で心を震わせる叫び声であるというのは、いささかロマンティシズムに欠けるであろう。と、すれば、これは堕天使の叫びか――? その考えは半分正解といえた。
見上げた空に、私は悪魔の形相の天使を見たのだ。
ああ、やはり先程の声は天からのものに違いない。私、小日向の上に雪村さんが文字通り降ってきたのである。むにょりという柔らかい感覚。しかし、それはさっきの意識が飛ぶ感覚ではない。これは、つまり、あれだ。
天使からの贈り物だ。
そうに違いない。そうでなければ、これほど柔らかく、そして、気持ちの良いものがこの世に存在するなどと、いやいや、落ち着け。なんというか、この、いっぱいのいをおに変えたものの手触りというのは、失礼。やはり、少し動転しているようだ、それではおっぱおになってしまうではないか。失敗、失敗。ふむ。なるほど、しっぱいのしをおに変えたものであるな。これはまさしく――と、今はそのようなことをしている場合ではない。とりあえず、むにょりむにょりと揉んでいる、この手をどうにかしなければ。
いや、しかし、待て待て。ここで止めろというのは、なんとも――
「きゃあああああ!」
今度のはまさしく、天使の叫び声であり、ついで、ぱちーんという小気味良い音が響く。私の頬は大好物のトマトに負けないくらい真っ赤に晴れ上がった。これではあまりに熟れ過ぎだ。涙目で口をぱくぱくとさせる天使を尻目に、私はそっと懐中時計の針を30分後に回したのだった。次のむにょりは、意識が飛ぶときのむにょりであり、決して卑猥な感触ではないことを言っておく。さすがに頬を張られてまで、破廉恥な行為に励むほど私も落ちぶれてはいないのだ。
良いか?
平手により晴れ上がった頬よりも赤い雪村さんの顔を見て、さらに気持ちが昂ぶったわけではないのだ。断じて、否である。しかし、やはり二次元よりも三次元の方が勝ることだけは確かであった。早坂よ。君は間違っている。それだけはここに記しておく。では、行こうか。
むにょり。