日向に降る雪
雪村さんと小日向くん
自宅に戻った私は机の上に置きっぱなしのノートパソコンを脇へとずらし、例の次元移転装置を空いた場所に乗せた。果たして、これが本当に四次元への移転を可能とするのか。すなわち、タイムトラベルを可能とするのか。これでも、研究者の端くれ。分野は違えど、こういった未知のものに興味がわくのは間違いない。しかし、作ったのは著名な教授でも、有能な研究者でもない。私のゆ……不本意ながら、ゆ、友人の1人だ。信憑性には欠ける。
そんな私の背を押したのは、友人から届いたメーリングリストだった。このメーリングリストは近隣の研究室に所属する学生同士が飲み会やらソフトボール大会やらの連絡をするために使っているものである。
その内容はひどく短かったが、私をひどく驚かせた。
「××研の雪村さんが事故に遭って怪我をした。今は付属病院で治療中」
ふと、彼女の明るい笑顔が浮かぶ。私の淋しい学生生活において、わずかながらの灯りであった彼女が事故に遭ってしまったというのは、非常にいたたまれない。私に何か……。
ただ。何気なく、である。私は早坂から預かった装置に視線を向けた。そして、自己主張激しくくっついている懐中時計に指を走らせた。そして、その針をほんの30分ほど前に回したのである。知的好奇心とはげに恐ろしいものである。私の意識は、むにょりと揺れた。