日向に降る雪
私は彼の言葉に首を傾げるしかなかった。そもそも次元を越えるという話ですら眉唾としか思えないのに、それを間違えたとはいったいどういうことか……。そこで私は彼がいったいどういう人物であったかを思い出したのだ。
「つまり、二次元にいく機械を作っていたのだが、何か不手際が生じた、ということか」
「いかにも、そうだ。君は全く理解が早くて助かる。さすがは僕の心友だ」
それは不名誉の誉れである。
「二次元にいく機械を作っていたはずが、なぜか四次元にいく機械ができてしまったのだ」
「私は物理学やら数学やら、そういった次元に関する話には詳しくないが、そもそも、二次元と四次元では着想の段階で異なるものではないのか?」
「それは確かにその通りだ。全く微積を間違えるとは、大学院生として恥ずべき事態。願わくば、引かないでいただきたい」
今のは、彼なりのジョークなのだろう。スルーを決め込んで、私はこの機械には似合わない懐中時計をとんとんと叩いた。
「引きはしないが、しかし、仮に君の言うように当初の目的が二次元への移転だとすると、ここに時計を取り付けたのはどういうことか。端から時間移動が目的であったとしか考えられないもだが……」
「それに気付くとは、さすが我が心友」
この短時間で二回もそれを言うのか。ぜひとも止めてくれ。止してくれ。
「その懐中時計は、わが師より頂いた大切なものなのだ。仮に次元を超えてしまっても、それだけは肌身離さずもっていたい。それゆえ設置したに過ぎぬ。……しかし、結果として、この機械を起動する上で必要不可欠なものになってしまったのだ」
彼は心底悔しそうに、機械を撫でた。愛すべき小型犬をあやすように。
「なるほど。わかった。しかし、野望とは違うとはいえ、この発明はすごいことなのではないか。四次元にいけるということは、つまり時間移動が可能ということだろう? 一種のタイムマシンということだ」
「そう割り切ることもできないのだよ。僕としては、二次元に行けなければ意味が無いのだ。こんなものはただのガラクタさ」
「そういうものか」
「そういうものなのだ」