日向に降る雪
私がこの騒動に巻き込まれたのは、大学院1回生の秋のころである。周りはやれ実験だの就職活動だの言っている中、相変わらずマイペースに実験に没頭していた早坂から一通のメールが届いた。内容はこうだ。
「遂に次元を越えることに成功した。しかし、大きな失敗をしてしまった。どうか、相談に乗って欲しい」
正直、とうとうどこか壊れたかと思った。あるいはくだらない冗談か。とは言え、私もさし当たって用事などなかったので、ひとまず彼の研究室へ向かうことにした。地味に長い階段をだらだらとのぼり、目的地にたどり着く。研究室の前には門番よろしくなにやら包み紙を持った小汚い男が立っていた。それこそまさに早坂であり、どうやら彼は私の到着を今か今かと待っていたらしく、すぐさま足早に近づいてきた。
「小日向。待っていたぞ」
「さっきのメールはどういうことだ?」
「それを今から話す。とりあえず、これを見てくれ」
廊下に設置されたソファに腰掛けた彼は、包み紙を開いて見せた。中からは奇怪な機械がそこから出てきた。……決して駄洒落を言ったわけではない。
「これは次元移転装置だ」
「……ああ、遂に頭が壊れたか」
「違う。これは僕の研究の成果だ。これを使えば、次元を1つ越えることができる」
珍しく神妙な顔で言う早坂を見て、僕はふむとその機械に触れてみた。金属の冷たさが手に伝わり。ひんやりと。形容のしがたい形だが、大きさはそれほどではない。小型犬くらいだろうか。端の方に懐中時計がついている。これはいったいなんだろうか。
「ただ1つ、残念なお知らせだ」
「ん?」
「僕は越えるべき次元を間違えてしまったのだ」