日向に降る雪
「仕方ない。今から僕の後輩を呼び出すとしよう」
「後輩?」
「ああ、見込みのある後輩だよ」
そう言って彼は携帯を開いた。そもそもそんな後輩がいるのならば、私ではなくはじめからその人に頼めば良いものを……。私は複雑なため息をついて、その後輩とやらが来るのを待った。
数十分後、眼鏡のよく似合う知的な美人が現れた。どれくらい美人かというと、そんなものここで語っても仕方あるまい。
「おい君。なんだい、このお綺麗な方は?」
「彼女こそ、僕の右腕。さくらちゃんだ」
さくらちゃん……? どこかで聞いた名だ。
「さぁ、いつものようにマスターと呼んでくれたまえ」
ああ、なるほど。私は彼のノートパソコンに視線を向けた。例のキャラクターと同じ名前だ。
「勘弁してください、先輩。私もそんなに暇じゃないんです」
呆れ果てたように言う彼女を見て、僕の口をついて出た言葉は驚くくらい阿呆な問いだった。
「君、さくらというのか」
「残念ながら、間違いのない事実です。天野さくらと言います」
「……早坂と出会ったのが間違いだったとしかいえないな。いや、ある意味“運命の出会い”か」
「お願いですから止めてください。それよりもあなたこそ。聞いてますよ、いつも。小日向先輩」
「何、馬鹿騒ぎに巻き込まれるのは慣れてるさ」
私はおどけて外国人がするように肩をすくめた。彼女はどうやらそれがおきに召したらしく、くすっと笑った。
「さすが、本物の右腕は違いますね」
「あいつの右腕は君に譲るよ」
「勘弁してください、先輩。こんなかよわい腕じゃ、心もとないですよ」
言われた私は運動不足がたたってあまり筋肉の付いていない腕を突き出した。
「私の腕よりは随分と魅力的だろう」
「新手の口説き文句ですか?」
「勘弁してください、後輩」