日向に降る雪
さくらちゃんとマスター
さて、雪村さんとの初めてのデート(仮)を終えた後、彼女とのメールの頻度も徐々に増えて言った。もはや、ただの友人よりかは親しい仲になったといえるだろう。そんなこんなで私の頭には雪村さんのことしかなかったため、しばらく次元移転装置のことに加えて早坂のことなど忘れていたのだが、ある大事件が勃発したために私は久しぶりに彼と連絡をとるはめになった。
彼はどうやら自宅にこもっているらしく、私は彼の家へと自転車を走らせた。彼の部屋は六畳ほどのよくある一人暮らし用の一室である。本の量が凄まじいが、それ以外はいたって普通といって良い。多分、押入れの中や、あの引き出しの中には、他人に見せられない“夢”がつまっているのだとは思うが。
「どうした、急に?」
ノートパソコンをかちゃかちゃやっていた早坂は、その作業を中断してこちらを向いた。デスクトップは例のアニメキャラクターだった。私は相変わらずだな、と思うと同時に激しく自責の念に駆られ、即座に頭を下げた。
「すまない、早坂。例のブツ、盗まれてしまった」
「例の……というと、あの次元移転装置か!? それは困る!」
早坂は見る間に狼狽を始めた。
「……すまない」
しかし、私はそんな彼をさらに狼狽させてしまう一言を言わねばならぬのだ。
「確かにそれも盗まれたのだが、例のブツというのは別のものだ」
「別の……?」
そう。彼にとって次元移転装置よりも大事な“あれ”を、私は……。
「まさか――!」
「ああ、君に言われて買いに行ったDVD付き初回限定版コミックのDVDだけを盗られた」
「君という人は本当に何をやっているんだ。次元移転装置よりもまず、そっちが優先だ。なんとしてでも取り戻さなくては!」
この熱さを別の方向に持っていけないものか。彼を前にして、涙を流しそうなほど悔しさに顔を歪める私にも同じ言葉をかけてやりたい。……情け容赦ない罵倒の言葉をかけるのはやめてくれ。