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日向に降る雪

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 そんな私の思考など露知らず、雪村さんは注文された品が届くのを待って、深々と頭を下げた。
「この前はありがとう。おかげで助かりました」
 面と向かってお礼を言われるのはなかなかに恥ずかしいものだ。私はもごもごと返事をすると、それをごまかすようにコーヒーをすすった。ふむ。美味ではないか。
 それからのぎこちなさは筆舌に尽くしがたい。これがデートならば失敗以外の何者でもないだろう。雪村さんはいくつかの話題を提示してくれたが、どうにも私がうまく受け答えができないのだ。普段よりも舌が回らない。ついでに頭も回らない。おまけに目も回りそうだ。……今こそ例の装置の時計の針でも回してみるか? 
 と思った矢先だった。最悪の印象のまま終わってしまうかと思われた窮地を打破したのは、認めたくないが、まさかの早坂だった。
「普段は何してるの?」
 という雪村さんの問いが始まりであり、ある意味で終わりだった。
「早坂という友人と会うことが多いかな」
「早坂君、というとあのちょっと“おかしい人”のこと?」
 私は雪村さんの勘違いを正すため、少々声を荒げた。心友のことを、そんな言い方されて冷静でいられるだろうか。いや、そんなはずはあるまい。
「“ちょっと”どころじゃない!」
 それから私は早坂の奇人・変人ぶりをぺらぺらと喋り続けることになる。中学のときに自転車で隣県まで駆け抜け、夜明けと共に「助けてくれ」という電話が自宅にかかってきた話(当時はまだ携帯電話が普及していなかったのだ。たたき起こされた私の親の身になって欲しい)。高校のときに期末試験の前日に新しいゲーム(大きい声では言いたくないが、これも二次元愛に溢れたモノだったらしい)を徹夜でやりこみ、名前欄のところに攻略中のヒロインの名前を書いた話。大学のときに酒に飲まれて山に登り、夜景を見ながら良いムードになっていたカップルのそばで失恋ソングを熱唱した話などなど。
 私の話を聞きながらころころと表情を変える雪村さんを見て、私はだんだんと楽しくなってきた。“これ”だ。私は今、とても楽しい。周りの人間が“これ”にのめりこむ理由がよく分かった。なるほど、確かに私は今、恋愛している。
作品名:日向に降る雪 作家名:彩月空