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夏色の麦わら帽子 -ノンフェイス予告-

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 散らばった物を集めなくちゃ。そう頭では分かっているのに、身体が思うように動かない。がたがたと身体は小刻みに震え、何度も何度も唾を飲んだ。恐怖ではない。ただただ驚いていた。こんなことをされるだなんて、思っても見なかったのだ。
「あーあ」
 突然の声に、ケイトは弾かれるようにしてそちらを振り返る。
「お互い、散々でしたね」
 見れば、大きな男だった。先ほどの子どもたちよりも酷く汚い格好をしている。写真でしか見たことのない、黒い着物を肩にかけていた。それがマントのように揺れ、ああ、生きていたのかとケイトは思った。あれは死体ではなかったのだ。
 つまり男の子たちは、生きた大きな男の身ぐるみをはいでいたのだ。
「これ、いただいていいですか?」
 潰れた瓜を差し出したので、ケイトは黙って首を縦に振った。
 早く買い直さなくては。
 男は瓜に齧りつきながら荷物を拾い集め、袋に戻す作業を始めた。ケイトも気を取り直し、少しずつ手を動かしながら、けれどもある一人の男のことを考えていた。
「ノンフェイス……」
「え?」
「彼は、まだこの街にいるのかしら?」
「何のことですか」
「知りませんか、この街の義賊です。この一ヶ月、噂はひとつも聞かないけれど、彼がいれば、あの子たちはこんなことをせずに済むかもしれないわ……」
 7歳の頃、海辺で、ノンフェイスに帽子をかぶせてもらったときのことを思い出す。
 広いツバが邪魔で、うんと首を伸ばしてその顔を見た。
 よく覚えていないけれど、ノンフェイスはいつも決まってお面をしている。顔がわからない、だから、ノンフェイス……とても怖いお面だったかもしれない、ケイトは、そのとき感じたことを、忘れてしまった。
 でも彼の存在は、貧困層の生きる希望になっていたことは事実だ。
「ごめんなさい、なんでもないの」
 散らばった物たちを集め終え、二人は立ち上がる。
「手伝ってくださって、ありがとう」
 男の手から袋を受け取る。ツバが邪魔でその顔がよく見えなかったが、うんと首を伸ばして確認することはできなかった。
「ノンフェイスはきっといる」
 男がそんなふうに言ったからだ。
 そして聞き返す間もなく、こちらに背中を向けて行ってしまった。