夏色の麦わら帽子 -ノンフェイス予告-
まだいるかしら、というケイトのつぶやきに、15年も昔の話だろうと返された。会話はそれきりになった。けれども確かに幼いあの日、兄たちと夢中になって屋根の上を走る義賊の背中を探した。まだ明るさが残る青い海、灯台からの光が眩しいあの場所で、大きなあの手に風に流された麦わら帽子をかぶせてもらった。夢ではない。確かな記憶だった。ぬくもりも、言葉も、何も思い出せないけれど、その広い影だけは強くケイトの心に残っている。
その義賊は、ノンフェイスと呼ばれていた。
生まれた土地ながら、知り合いも身寄りもない生活が始まる中で、その事実は彼女の心を暖かくするのだった。
作品名:夏色の麦わら帽子 -ノンフェイス予告- 作家名:damo