小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

雨があがれば

INDEX|2ページ/4ページ|

次のページ前のページ
 

「今返却した模試の成績表は、本番の大切なデータになるからな。各自、自分の弱点を克服するためにも、しっかりと結果に向き合うように!」
塾の先生の言葉が、大教室にむなしく響く。
むなしく、っていうのは、要するに誰もまともに聞いちゃいないということだ。
みんな自分の成績へのリアクションで忙しいのだ。耳タコなセリフになんていちいちかまってられない。
そして僕も、そんな大多数の中の一人だった。
「マコト、模試、どーだった?」
同じ塾仲間が声をかけてくる。とっさに結果表を見えないように折りたたんだ。
「え、あは、全然、上がってなかった。まいっちゃうよ。おまえはどうなの?」
声が少し裏返ったような気がした。でも、向こうはそんなことには気がつかない様子で、満面の笑みをたたえて結果表をつきつけてくる。
「見てくれよ、ようやくB判定出たんだ!いやー、神様はやっぱ見てんだなー!おれ、最近すっげー頑張ったもんなぁ。あっ、これもマコトがバカなおれにもわかるように教えてくれたからだな!神様、マコト様、奇跡をありがとう!」
一人でハイテンションになっている友人に精一杯の作り笑いを向けながら、僕はさっき渡されたばかりの自分の成績表を握りつぶした。
下がり続けるグラフ、D判定だらけの現実も、一緒に潰れてくれたらどんなにいいだろうと、思った。

一緒に学習室で勉強していこうというカズキの誘いを断って、僕は塾を出る。
いつもは暗くなるまで勉強していくようにしているのだが、今日はとてもそんな気分になれなかった。
正確に言おう。
努力なんてあほらしくてやってられなくなったのだ。
だって、そうだろう?毎日毎日、それこそやりたいことも我慢して、自分をすり減らして、泣きたい思いでやってきた、これがその結果か。
成績は下がるばかり。よくて現状維持が精一杯だ。
なんで、あいつはそうじゃないんだ。僕はさっきのカズキの笑顔を思い出す。
カズキはバスケ部でぎりぎりまで現役でねばっていたクチで、成績は下の中がせいぜいだった。乞われるままに、僕は勉強を教えた。
一緒にもがいてくれる相手がいて、嬉しかった。なのに、なんで、なんであいつだけ。
ぽつ、と、アスファルトの一点が濃くなった。みるみる濃くなっていく。
雨が降ってきたんだ。
夏の通り雨は激しさを増し、いくらもたたないうちに僕はぬれ鼠になった。
とにかく雨宿りをしようと、僕は歩道橋の下に逃げ込む。

そして、彼女に会った。
作品名:雨があがれば 作家名:やしろ