続々・三匹が行く
「なに辛気臭くなってんだよ。最後の夜なんだからさ。もっとぱーっといこうぜ!」
まだ大分残っている酒瓶をこれ見よがしに持ち上げてチヒロが陽気に言う。
半分は苦笑、残りの半分は安堵の息をついて、イジューインとセンリは気持ちを切り替える。
今は納得がいかなくても、いつかきっと時が解決してくれる。
少なくとも今、チヒロが幸せで笑っていてくれるのならそれでいい。
「そうだね」
「よし、今日は飲むぞ!」
「おう!」
「そーいえばさー、センリー」
「あん?」
一体どれくらいの量を飲んだのかもう覚えてもいない。
床には結構な量の空き瓶が転がっている。
チヒロやセンリのろれつは回らなくなってきている。だが、まだ二人ともそれなりに会話が出来るほどの思考は残っているようだった。
「何でお前、王子だってこと言わなかったんだよー」
「んー?」
「お前が王子だって知ってたらさー」
「知ってたら?」
「もっとたかってやったのにー」
「お前、あれ以上俺にたかる気だったのか!?」
そう答えたセンリだったが、顔はしっかりと笑っていた。
「でもさあ、チヒロはさておき、イジューインはあまり驚かなかったよな」
自分がスイランの王子だと言ったときの二人の反応を思い返してセンリは言う。そんなセンリに、一人思考もろれつもハッキリとしているイジューインは、にこやかに笑って返事を返した。
「だって僕知ってたもん」
「へ?」
「君がスイランの第四王子だって」
「な……!?」
イジューインが飲んでいなかったわけではない。むしろチヒロやセンリ以上に飲んでいたのではないだろうか。
しかしそれでも全く酔っている気配がない事と、言葉の内容に衝撃を受けたセンリは一気に正気に戻った。
「これでも僕は十五の時から王宮に仕えているんだからね。センリは覚えていないかも知れないけど、チヒロと会う前にも一度会ってるんだよ」
「……いつ?」 「あれは、僕が候補の中からとりあえず見習いとして仮に選ばれて間もない頃……」
「イジューインよ」
「はい、何でしょうお師匠様」
齢百を越えていると言われている現宮廷魔道士シノノメに呼ばれ、イジューインは整理していた書物の山を手に振り返る。
それにしてもどう見ても二十歳後半くらいにしか見えないシノノメの姿にはまだ毎回面食らう。