続々・三匹が行く
夢の中にいるような声で、彼は返事を返してきた。
「もう少し休むと良いよ、チヒロ。君はまだ疲れてるでしょ?」
「……うん」
優しく告げたイジューインの言葉に素直に頷き、チヒロは再び深い眠りに落ちていった……
「で?」
「ん?」
「ん、じゃないだろ! 結局の所チヒロに何があったっていうんだよ!!」
「知らない」
「へ?」
すっぱりと答えたイジューインに、センリは素っ頓狂な声をあげた。それから当の本人であるチヒロの方に視線を移した。
しかしチヒロは『初耳だ』というように首を横に振るだけだった。
「何で……?」
「山は乗り越えたものの、その後三日ほど高熱が続いてね……そのせいなのか、目が覚めたときにはそれまでの記憶がすっぽりと抜け落ちていたんだ。
「!!」
センリもチヒロも思わず息を呑んだ。センリは当然なのだが、チヒロにとってもそれは初耳だった。
放心した表情でイジューインの事を見ていた。
「父さんや母さんと相談した結果、とりあえずうちで預かることにしたんだ。誰かが迎えに来るまでね」
「……でも、迎えは来なかった」
「……うん」
センリの言葉にイジューインは静かに頷いた。
「チヒロを僕の弟としたのは父さんと母さんだったんだ。拾われっ子というのは記憶がないチヒロにとってきっと辛いだろうから、って
」 「それは正解だな」
そして、イジューインとセンリはそろってチヒロの方を見た。俯いていたチヒロは二人の視線に気づいたのか、顔を上げてにっと笑った。
「何て顔してんだよ、二人とも」
「…………」
「俺、幸せだったよ。イジューインに拾われて、優しい父さんと母さんに育ててもらえて」
「チヒロ……」
「本当の両親がどんなだったかなんて気にしてないさ」
ぱたぱたと手を振りながらどうでもいい事のようにチヒロは言った。
しかし二人とも分かってしまった。チヒロのその言葉が本当でない事に。
一体何があったのか。事故だったのかトラブルだったのか、本当のところは全く分からない。
しかし、迎えが来なかったという事は見捨てられたという事。
本人たちも亡くなってしまっているとかそういう状況ならやむをえないが、もしそうでないなら……
チヒロの気持ちを思いやって、自然と二人とも無口になる。