続々・三匹が行く
「何じゃ、まだ支度しとらんのか」
「は?」
いきなり何の事かと首を傾げたイジューインに、シノノメはさらりと重大な事を告げてきた。
「王との謁見がもうすぐであろう」
「謁見!?」
「そうじゃ、前に言ったであろう」
「聞いてません!」
「おや、忘れとったかのう」
「……お師匠様ー」
思わず情けない声を上げてしまったのも無理はない事だろう。
何しろ目指していた宮廷魔道士への第一歩として、見習とは言え現宮廷魔道士を師匠としての修行を始めたばかり。
いくら年より大人びていて、終始落ち着いていると噂されているイジューインでも王との謁見と言う重大事に平然としていられるはずなかった。
しかし、現宮廷魔道士にとってはそんなこと大した事ではないらしい。
「ま、いつかせにゃならんことだし、別に今日でも構わんじゃろう」
「…………」
ここで、弟子の不安な心境を読みとって「ではまた後日に」と言ってくれるような人でないことは、短い付き合いでありながらも嫌というほど分かっている事が悲しかった。
「……分かりました」
大人しく頷いたイジューインに対して、シノノメが実に楽しげな笑みを浮かべていた事に彼が気づかなかった事は幸か不幸か……
「そなたがイジューインだな。シノノメより話は聞いている。面を上げるが良い」
型どおり王の前で跪き頭を垂れていたイジューインはその言葉に頷いて静かに顔を上げた。
そこで初めてイジューインは王の顔を間近で見た。
口元に生やした髭と、鋭い光を持った瞳。しかしその瞳は笑うと意外なほど穏やかで何故か心が落ち着いた。威厳と威圧、それと同時に和やかな雰囲気も兼ね備えた彼は確かに王として相応しい人物だと感じられた。
「年は幾つになる?」
「え……あ、今年で十五になります」
色々と思いを巡らせていたため、王の問い掛けに返すのが少し遅れた。
その様子が鈍重そうに見えたのか、王の横に座っていた青年達から揶揄するような声が飛んでくる。
「おやおや、今度の宮廷魔道士様は大層おっとりとされた方のようですね」
見事な金髪を軽くカールさせて、一見すれば女性のようにも見えかねない青年。羽根飾りのついた扇を手にくすくすと笑っている。
「そんなことでは火急の事態に対応できないのではないですか?」