続々・三匹が行く
ベッドの横に置かれた椅子に腰掛け、イジューインは改めてそこに眠る彼のことを見た。
乾いた服に着替え、暖かい布団に寝かされた彼はイジューインが見つけた時よりかなり表情が和らいでいたが、それでも時折苦しげな顔を見せる。
「……何でこの子はあんな所に倒れていたんだろう?」
すごい雨だったため、人は他を気にする余裕などなかった。ましてあんな分かり辛い所で黙って倒れている彼になど早々気づきはしないだろう。
あのまま自分が気づかなかったら、彼はそのまま死んでいたか、獣にでも食われてしまったかもしれない。
先ほどは大して気にもしなかったが、彼が着ていた服は結構良い生地で仕立てられていた。それなりの身分の家に生まれたのだろう。
そんな彼が何故あんな所に倒れていたのか。様子から察するに、あの川を流されてきて、何とかあそこで這い上がったのだろう。何処でどうして川に落ちたのかは不明だが、何らかの事故かトラブルにあったことに間違いはないだろう。
彼の寝顔を見ながらそんな事を推察しているうちに、旅の疲れからか眠気が襲ってきて、イジューインは知らぬ間に眠りに落ちていた……
「ん……」
眩しい光が顔にあたり、眩しさで目を覚ました。
椅子に座ったまま、目の前のベッドに倒れ込むような形で眠ってしまったため、腰と肩がかなり痛い。
ゆっくり起きあがると、肩から毛布が落ちた。
恐らくは母親がかけてくれたものだろう。
段々と眠りから覚醒し、今の状況を思い出した。彼はどうなったのだろうと思い、恐る恐るそちらを見る。
物言わぬ死体になっていたらどうしようかと瞬間不安も過ったが、それは杞憂だった。
彼は昨日と同じ状態で眠っていた。胸は規則正しく上下して、昨日のような苦しげな表情はその顔から消えていた。
「良かった……」
ホッと安堵して、そっと彼の頬に手を伸ばした。
「え!?」
イジューインの手が頬に触れた瞬間、彼の瞳がパチッと開いた。
慌てて手を離そうとしたが、それは出来なかった。彼の手がイジューインのその手に触れ、そして彼がにっこりと満面の笑みを見せたからだ。
「……僕はイジューイン。君は?」
意図せずそう問いかけていた。
大丈夫、とか他に問うべき事は沢山あるはずなのに。
「……チヒロ……」
目は開いているが、どうやら覚醒はしきっていないようだった。