続々・三匹が行く
イジューインの後を追ってきた父親は、彼が抱えているのが子供だと知って驚いた声をあげた。
「すごく冷え切ってる。水も大分飲んでるみたい。早く何とかしてあげないと……」
「分かった。とりあえず家に連れていこう」
父親の決断は早かった。イジューインから彼を受け取り軽々と抱き上げる。代わりにイジューインは父の荷物の一部を引き受けた。
そして二人は今まで以上の速さで家に向かって歩き出した。
「……その子供がチヒロだった、と……」
「うん」
「……あれ? なあ、ちょっと待てよ。お前らって、二歳違いなんだよな?」
「うん。ハッキリした事は分からないけど、多分そのくらいの違いだよ」
「……ってことは、その時のチヒロの年ってさ……」
「六歳、だね」
「…………」
センリの顔に疑問の色が浮かぶ。彼はチヒロの方を見て不審げに首を傾げた。チヒロは彼が何を疑問視しているのかに思い当たらず、きょとんとした顔をしている。
イジューインはセンリの抱いている疑問に気づいているのだろう。穏やかに言葉を続けた。
「まだ続きがあるんだよ、センリ」
「肺炎を起こしかけているな……危険な状態だ」
土砂降りの雨、しかも日暮れ間直のその時間に無理を言って来てもらった医者は、少しの診断の後そう告げた。
「今夜が山場だろうな。乗り越えられれば回復に向かうだろうが、果たしてそこまでの体力が残っているかどうか……」
「…………」
あとは本人次第という事だ。
医者はまた明日来ると言って、薬を置いて帰った。
「あなたもイジューインも長旅の後で疲れているでしょ。あとは私が看ているから、二人とも休んでちょうだい」
「……そうだな」
妻の台詞に父親は頷いたが、イジューインは少し考えた後母親に問い掛けた。
「母さん、僕ここにいちゃ駄目?」
「……いいわよ」
息子の気持ちを汲み取って、母親は優しく頷いた。
「ありがとう」
「じゃあ、とりあえずお風呂に入って着替えてらっしゃい。それから台所にご飯が出来てるからちゃんと食べてくるのよ。それから、眠くなったらちゃんと眠る事。約束できる?」
「うん」
頷くとイジューインは母親に言われた通り風呂に入って着替え、台所で食事を取って戻ってきた。
いつも以上の素早さに苦笑しながら、母親はイジューインに場所を譲る。