続々・三匹が行く
宿は殆どが一人部屋だったので、三人はそれぞれに部屋をもらったのだが、当然のようにチヒロがイジューインの部屋に遊びに行き、それを見越していたのか追ってセンリが酒瓶とグラスを持ってやってきた。
チヒロは壁際にあるベッドの上、センリは床の上、そして一応部屋の主であるイジューインは唯一の椅子に座って、酒を酌み交わした。
こうして三人でいることが自然だった。この三年間は。
しかし、それも今日で終わる。
センリは次期スイラン国王、イジューインは次期宮廷魔道士。三人の道は分かれている。 チヒロの未来がどうなるかは分からないが、いつまでもこのままでいられないことだけは事実だった。
誰も口にはしなかったが、そのことは三人とも分かっていた。
分かっているからこそ、今まで聞けなかった事、聞かなかった事も意外と自然に口から出てきた。
「何でそうまでして?」
今までならそんな事までは聞かなかっただろう。それはイジューインが彼なりに考えて出した結果で、そうたやすく聞いて良い事ではなかったから。
でも今、センリはあえて問い掛けた。聞いておきたいと思った。今や親友とよんで差し支えないほどの仲間が、どんな思いでそういう行動に出たのかを。
対して、イジューインは実に簡潔に答えた。
「だって僕はチヒロのお兄ちゃんだから」
「…………」
あまりにも予想通りと言うか……それが当たり前のように言いきったイジューインに、センリは少し戸惑った後問い掛けてきた。
これも、今まで聞こうと思って聞けなかった問い。
「お前ら、一体いつどうやって出会ったんだ?」
「…………」
「…………」
部屋の空気が変わったのが感じられた。先ほどまでの明るさから一転して暗くなったそれに、センリはやはりまずかったかと困った様子で視線を泳がせた。
チヒロは、手にした酒のグラスを見つめながら考えていた。一体いつから自分はイジューインと『兄弟』になったのか……正直、チヒロはそれを覚えていなかった。記憶にない、というのが正解かもしれない。
何で記憶にないのかチヒロには分からなかった。だから、それを唯一知っているであろうイジューインの方を見る。
イジューインは穏やかな瞳でチヒロのことを見ていた。
そして、その瞳は同時に問い掛けてもいた。話しても良いか、と。