続々・三匹が行く
にっこりと笑顔で話をまとめたイジューインに、センリは頭を抱え込み、チヒロは苦笑まじりの笑顔で相槌を打つ。
「……聞くんじゃなかった」
「……すごいなあ、イジューイン」
「やだなあ、チヒロ。そんなに褒めないでよ」
何と返して良いか分からず、チヒロは乾いた笑いを見せ、代わりにセンリが思いっきり首を横に振った。
「褒めてない褒めてない」
「それにしても……相手は宮廷魔道士様だったんだろ……」
宮廷魔道士と言えば王に継ぐ権力の持ち主である。
特に今の宮廷魔道士は長い間王宮に仕えているだけに、彼の言葉一つで王も動くとまで噂されるほどの人物である。
その人にそんな無理を言うなんて……と、チヒロは少し心配の意味もこめて呟く。
「だって、言質でも取らない限り、休みなんてもらえないもん」
「……いや、いくらシノノメでも『普通の』休暇ならくれたと思うぞ」
現宮廷魔道士を知っている者として、センリは一応フォローをいれる。
いきなり「明日から三年間」などという休暇の申請をする人間は早々いないだろう。それを躊躇うことなく(しかもあっさりと)やってのけたイジューインに対してセンリは一種の尊敬すら覚えた。
まあ自分もごく一部の人間に、しかも出発日の前日夜に一言だけ言って出てきたのだから偉そうに言える筋合いではないのだが……
「で、お師匠様が快く休みをくれたおかげで、僕はこうしてここにいるわけ」
スイラン王国まであと半日ほどの距離にある小さな村の宿屋。
あの刺客たちの襲撃の後、疲れたから休みたいと言い張ったセンリに、テンプルナイツたちはその意見はもっともだと納得し近くの村に宿を取った。
しかし普段の彼を知っているチヒロとイジューインにとってはそれが方便だとわかった。
恐らく彼はまだ帰りたくはないのだろう。
彼の素性がわかった今となってはそれももっともな事だと思う。
別に急ぐわけではないし、疲れているのも確かだったからあえて異は唱えなかったが、宿屋に向かう道中チヒロが「この嘘吐き」と笑いながら言ったのに対してにやりと笑いを返してきたセンリがいたのもまた事実だった。
波乱万丈だったこの旅も、明日で終わる。
最後の最後で大騒動も待っていたが、それも過ぎてしまえばいい思い出だろう。