続々・三匹が行く
恐らく彼は自分がいつの間に殺されたかも分からなかっただろう。それほど早く、そして見事な剣さばきだった。
しかも、使いなれていない剣でなおかつそれを使ったのは『魔道士』のイジューインなのである。
たかが子供と侮っていた彼らの間に動揺が走る。
そんな彼らを前にして、イジューインは不敵な態度で言い放つ。
「僕、今かなり怒ってるから。手加減できないよ」
冷静な思考を持っているものならば気づいただろう。その声に秘められた感情がとてつもなく冷たい刃を伴っている事に。
しかしイジューインの幼い外見が彼らの目にフィルターをかけた。
「何を若造が」
一人が鼻で笑いイジューインに斬りかかって行く。
それをイジューインはすっと避け、無造作に剣を振り下ろした。それは狙い違わず男の頭部に振り下ろされる。
ぐしゃっという聞きがたい音と共に、辺りに液体が飛び散る音が響く。
ザッ
再び風が吹いた。
月を覆っていた雲が動き、綺麗な満月が姿を現す。
月明かりの下、返り血で真っ赤に染まったローブを纏い、薄く笑って立っているイジューイン。
その姿に彼らは思わず寒気を覚えた。殺しのプロである人間が、だ。
「次は誰?」
淡々とそう告げるイジューインに、彼らは本来抱いてはいけない感情を抱く。
恐怖と怯え。
そんな彼らの感情を察したのか、イジューインはにっこりと笑って告げる。
「いやだなあ、もう少し相手になってよ」
天使のように無垢な微笑み。しかしその笑顔を向けられている相手は、誰一人違うことなく思った。それは魔性の笑みだ、と。
「そうしないと、僕のこの怒りのやり場がないじゃない」
ゆるやかな笑みを顔に残したまま、イジューインはゆっくりと彼らに歩み寄っていった……
しかし彼らもここまできて引き下がる事は出来なかった。
残った四人は目配せで意見を一致させ、二人づつに分かれてイジューインを挟み撃ちする作戦に出た。
最初の二人は息が全くあっていなかったので、楽に殺せた。
だが、あとの二人が厄介だった。
それなりに実力のある人間が力を合わせると厄介で、長期戦にならざるを得なかった。
元々魔道士であるイジューインは、チヒロやセンリと比べると絶対的に体力が不足している。