続々・三匹が行く
チヒロはというと、すでに泥酔してベッドに倒れ込んでいる。途中からすやすやと心地よい寝息すら聞こえてきていた。
「知ってたんなら早く言ってくれよ!」
「だって君、チヒロに王子だって言ってなかったでしょ」
「………」
「それに、次期国王の話は絶対冗談だと思ってたもん」
きっぱりと言い放ったイジューインにセンリは返す言葉がなかった。
「だって『あの』お師匠様だよ。その時は僕まだ若かったから本気にしたけど、長く付き合ううちにあれは絶対お師匠様の冗談だと思うようになったし」
「まあ、確かに『あの』シノノメだしなあ……」
遠い目でセンリもイジューインの言葉に頷く。チヒロがいたら何らかの反論はあったかもしれないが、これがシノノメを知っている者の共通見解である。
「でもよお、こうして正式に発表したってことは親父もシノノメも本気なんだよな」
「そうだね」
「…………」
センリは黙って酒を煽った。複雑な表情を見せる彼に対してイジューインは静かに問い掛ける。
「センリは王様になりたくないの?」
「……ずっと王位は兄貴が継ぐと思ってたし、まさか第四王子まで回ってくる事はないだろうなと思って勝手にやってたからなぁ。んなこといきなり言われてもさあ……でも」
「でも?」
「兄貴たちが国王になったら、多分駄目になっちまうんだろうなって事は何となく思ってた。俺、あの国好きだからそれは嫌だったんだよな……でも、俺で大丈夫なのかな?」
大分酒が入っているものの、センリの目は真っ直ぐだった。そんな彼にイジューインは穏やかに微笑んで答える。
「大丈夫だよ。君は人の痛みを知っている子だから」
「そっかな……?」
「うん」
「……そだな。お前らと一緒なら、何とかなるかもな……」
「頑張ろ、センリ」
「……ん……」
「センリ?」
俯いていたセンリの反応が途絶えたので不思議に思ってイジューインがその顔を除き込むと、彼はその体勢のままいつのまにかすやすやと眠っていた。
「大丈夫、君はきっといい王様になれるよ。僕もチヒロも手伝うから、頑張ろう」
優しい声でそう言いながらイジューインはセンリの身体を軽々と抱き上げてチヒロの隣に寝かせた。
一人用のベッドに二人では少々狭いかもしれないが、熟睡している二人にはさして問題ではないだろう。明日の朝が大騒ぎかもしれないが……