続々・三匹が行く
戻ったイジューインを迎えたのはシノノメのそんな言葉だった。
実に意地の悪い笑みを浮かべていた事からイジューインは師匠の真意を察し取った。
ため息混じりに、しかし思ったとおりの感想を答える。
「陛下は立派な方でしたが、第一王子があのような性格の持ち主ではこの国の未来は明るくないのではないかと……」
他の者に聞かれたらまさに不敬罪として問われそうな言葉をイジューインはさらりと口にした。そんなイジューインの態度にシノノメは怒るどころかさらに楽しげな笑みを浮かべる。
「ならばおぬしは次の王として誰が適任じゃと思う? 二番目か、三番目か?」
にやにやと、まるで答えを分かっているようなシノノメの問いかけにイジューインは小さなため息をついた後、しかし偽ることなく本音で答えた。
「強いて言うなら第四王子ですね。多少問題はありそうですが、彼なら人望の厚い良い王になれると思います」
「やはりおぬしもそう思うか」
シノノメは楽しげに笑っていた。
「……それは、どういう意味ですか?」
「わしも王も同じ思いでおる」
「……え?」
王族は世襲制だ。よほどの事がない限り王位は第一王子が継ぐことになっている。第一王子が不慮の事故などで亡くなった場合は第二王子、次いで第三王子、といった順に向き不向きの問題ではなく生まれた順で継承順が決まるのだ。
「ただのう、あやつはまだ若すぎる。その上世間の事なんぞ全く知らん、勉強と名のつくものが殆ど嫌いな馬鹿王子じゃ」
「……お師匠様……」
仮にも彼は王子なのだが……
「だからの、今それを発表したところで、大臣やら他の王子やらに異を唱えられ、最悪謀殺されてしまう恐れもある」
しかし後半のシノノメの言葉は真面目だった。
声もいつになく真面目で、思わずイジューインも居住いを正した。
「ま、幸いにもこの国はまだまだ王が健在じゃから、もう少し時期を見ることにしよう」
「……何で僕にそんな話を……?」
ふと疑問に思って問い掛けたイジューインに、シノノメは実にあっさりと返してきた。
「お主、次の宮廷魔道士じゃろ」
と。
「いやー、それにしてもまさかお師匠様が本気だったとはねー」
ははは、と笑いながらイジューインはセンリに告げた。