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密研はいりませんか?

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 彼には数多くの逸話がある。鉛を金に変える事が出来たり、フランス革命が起きる何十年も前にその事について予言したり。何も食べる必要がなく、秘薬のおかげで年はとるが、肉体は劣化しない。あらゆる言語を知っていて、音楽家でもあった。そして世界中の権力者たちと顔見知りであるという。多くの記述には美男子で世の女性を虜にしていた、と書かれているがどうやらそれは嘘らしい。目の前に居るのはどう見ても普通の五十代の男性だ。歴史の中で最初に登場したのは千七百十年の事。始めて登場した当時からサン・ジェルマンは自身の事を『サン・ジェルマン伯爵』と名乗っていたらしい。最後に登場したのは千八百二十一年。この約一世紀の間でその他数々の逸話を残したという。信じがたい話ではあるが、現に彼は今もこうして生きている。ありえないことだが。逸話が本当だとは信じていないが、セオウルフの掟には組織の中には嘘、偽り、秘密は許されないとされている。その為信じるしか無い。だが本気で信じている者は組織にの中には一人もいないだろう。会った事も無い上層部の人間以外は。
「では、去年の活動報告を。どこまで一体化が進んだんだ?」
 伯爵は両手を組ながらそう言った。
「まずは、政権交代が行なわれて忙しかったであろう日本からお願いするとしよう」
 伯爵はこちらに目を向けてそう言った。
「いいかな?」
「はい」
 静かに立ち上がった。

 全く予想していなかった回答で単純に驚いてしまった。
「母さんのいる所?」
 確かめたく、聞き返した。
「あぁ、そうだ。英語をもっと勉強しといた方がいいぞ」
 父はうなだれながら、黒ぶちの眼鏡越しに優しくこちらを見つめてそう言った。写真を返して自分のご飯をとり始めた。
 母さんのいる所? それって……。
 その時、きれいに一つ目の疑問が解けた。
「アメリカのワシントン!?」
 興奮して自然に声が大きくなった。
 そうか! 山勢はこの地図で示されているワシントンに研修の機会を使って行こうとしたのか! 
 謎のポスターがようやく意味を成した。だが、そこで次の疑問が出てきた。
 何のため?
「写真持ってにやついてないで、早く自分のご飯もってきなさい」
 いつの間にか既に食事をしていた父が心配そうにこちらをみながらそう言った。その言葉をきいてはっと我に返った。そして急いで先ほどのお椀をとり、飛びつくように食卓に向かった。
「家の中では走るなと言っただろ」
 父は呆れたようにそう言った。
「子供みたい」
 佳奈はそう言ったが俺の耳には入らなかった。
「ねぇ、何でワシントンだって分かったの?」
 箸をみそ汁に付けながら気になったことを尋ねた。
「んー。簡単さ。貸してみ」
 父は写真の中を指差しながら見せてきた。すると、父と俺の間に隣に座っていたはずの佳奈の顔があった。
「何だよお前。邪魔すんなよ」
 俺が、そう言うと佳奈は怒ったような表情を見せた。
「いいじゃん、あたしだって見たいもん」
 父はその光景がおかしいのか苦笑していた。
「じゃ、佳奈も英語の勉強だな」
 父はそう言って改めて指差した所を説明し始めた。
「ここにWashington,D.Cって書いてある」
 父は筆記体で書かれた字を上から指でなぞりながらそう言った。なんとも簡単な答えだった。
「え、でもそれ――」
「筆記体でも関係ない。英語は英語。それに英語の勉強をしてればいやでも出てくるものさ」
 父はまたも呆れたような顔をした。
「そうじゃなくてそれアイじゃなくて、小文字のエルだよ」
 俺がそう言うとまたもがっくりうなだれた。
「アイは小文字で書く時には棒の上に点が書かれてるだろ。これを見てみ」
 父はそう言って地図中の点を指で指してそう言った。
「あ、書いてある」
「な」
 父はまたも苦笑しながら、写真を返し食事に戻った。返してもらった写真の地図をよく見てみた。確かに点はあったが、とても小さくインクのこぼれた点にも見える。言い訳を言おうとしたが、しかたなく写真をテーブルの上に置いた。
「でーその写真は何? まだ教えてもらっていないけど」
 父は興味ありげにそう尋ねてきた。
「これは、放課後に山勢からもらった写真で、久々のネタの資料なんだって」
 手前にあった料理に手をつけながら答えた。
「どんなネタだ?」
「簡単に言うと秘密結社の事だって」
「有名なフリーメイソンとかか?」
 この名前は久々に訊いたような気がした。『フリーメイソン』最近流行のオカルトチックな番組では何でもかんでもこの団体に結びつけて『それらしさ』を演出してる。見てて面白くないわけではないけれど、この会社のマークはメイソンのマークに酷似していて、何か関係があるだとか、世界中の歴史上の出来事にはほとんどメイソンが関わっているだとか、この世界はメイソンによって操られているだとか、あまりにもこじつけ感があって見ていて笑ってしまう事がたまにあり、まだ密研の方が信憑性が高いと思う事がある。
「それが山勢の調べた秘密結社は訊いた事もないような名前なんだ。セオウルフっていうんだけど」
 父はそれを訊いても何も反応がなかった。本当に有名じゃないらしいな。
「でーいつから調べているんだ?」
「ん? あぁ今日からだよ」
 とその時、アメリカ研修の事を思い出した。
「ちょっと見せたいものがあるから、とり行ってくる」
 そう言って二階に上った。ポスターをとり、また一階へ。
「これだよ」
 父にそう言ってポスターを渡した。
「これがどうしたんだ?」
 その質問に待ってたとばかりに自然と自分の頬がつり上がったのが分かった。放課後説明していた山勢の気持ちが少しだけ分かったような気がした。
「山勢はきっと、この地図にのってるワシントンに行きたいんだ。そこでセオウルフについて調べるつもりなんだと思う」
 父は顔を上げ口を開いた。
「行ってこい」
「え?」
 いきなりの返しにまたも驚いてしまった。父の発言は実にあっさりしていて、「え?」と返しても父の表情はきょとんとしていた。
「何で? え? だって金も掛かるし、中三だし、受験もあ――」
「夏休みは四十日くらいあるんだろ。そのうちの一週間くらいなんだからさ」
 父はそう言いながら、ポスターに書いてあった滞在期間を見せてきた。
 確かに行きたい気持ちはある。でも、中三という事がどうしても邪魔をする。
 父はその気持ちを読み取ったのかさらに付け加えた。
「母さんに会ってみたいだろ。パソコンのテレビ電話だけじゃやっぱり駄目なもんだよ。それに英語の勉強にもなるだろう」
 優しくそう言ってきた。
「父さんは絶好の機会だと思ったな」
 ポスターを返してきた。
「ねぇ、佳奈も行っていい?」
 佳奈は期待を込めた目で父に尋ねた。
「中学生になったらな」
 佳奈はそれを聞いてまたも不機嫌そうな表情をつくった。
 行ってこい。そう許しはもらったわけだけど、どうしても素直に「行く」と言えない。勉強。これを無視しようとすると、どうしても罪悪感に似たものを感じる。
作品名:密研はいりませんか? 作家名:paranoid