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深川ひろみ
深川ひろみ
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君が教えてくれたこと

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第一章 訪問者(1) - 委員長と転校生 -



【場面1 委員長と転校生】

 県立霧島高校は、県内でもトップレベルの共学の進学校である。創立八十八年目を迎える旧い学校で、改築を重ねている学舎は一目で年代ものと判る。校風は比較的自由で、教育方針は「生徒の自主性・主体性尊重」と「文武両道」。クラブ活動も盛んだ。
 内原祐一(ゆういち)は、この日もいつもと同様、始業の一時間前に教室に入った。そういう生徒は祐一だけではなく、教室内には既に三人の姿がある。三十分以内に十名を越すだろう。
 祐一は物理の問題集を開いた。
「おっす、内原」
 隣りの列から岩城(いわき)が話しかけてきた。かなり細身ですばしっこい眼をした岩城は、一見ひ弱な印象だ。だが、実はブラスバンドでパーカッションをやっており、案外パワフルな演奏をやってのけるという一面を持っている。また新しいものに目がない彼は、祐一にとっては貴重な情報源だった。
「おはよう」
「今日転校生来るってさ」
 話したくてうずうずしていたという口調に、祐一は微笑で答えた。
「そうだってね」
「えっ? お前何で知ってんの?」
 やや不満げに岩城が尋ねてくる。
「昨日偶然会ったんだ」
「ちぇっ―――せっかく教えてやろうと思ってたのにさ。内原が知ってるとはね」
 祐一は苦笑する。
「どうせぼくは情報疎いよ」
「で、どんな奴? 喋ったのか?」
「少しね。私服可だからうちにしたって」
「えーっ、余っ裕じゃん。そりゃ上ノ京(かみのぎょう)高校っつったら京都でも有名だし、レベル的にはうちより上かもしれないけどさ、授業はともかく三年のこの時期に転校は痛いだろ」
「上ノ京高校って―――あの模試とかでよく上位にあがってる?」
 祐一は問い返した。岩城はプッと吹き出す。
「何だ、お前、喋ったとか言っといてそれ訊いてないの」
「そういえば、そういう話しなかったなあ」
 上ノ京高校は京都にある私立の男子校で、岩城の言うとおりレベル的には霧島の数ランク上だ。
「普通訊くだろ、転校生に会ったらどっから来たかぐらいさ。だからお前って天然なんだって、そういうとこが」
 祐一は苦笑して、それには答えなかった。
「あそこ、クラブも確かすごいぜ。テニスとか陸上とか全国レベルのはず」
「いつも思うんだけど、何でそんなに色々知ってるんだよ。別に陸上部でもテニス部でもないのに」
「それは単なる趣味だけど。な、すっげえ成績よかったって噂なんだぜ。お前とどっちが上かな」
「多分、向こうのほうじゃないのか? 上ノ京高校って名門だし」
 思ったままを答えると、岩城は苦笑する。
「相変わらず、張り合いねーのな。野口とか、絶対ピリピリするぜ。こんなとき、編入試験満点の理由(わけ)ありの転入生とか、ドラマでありそうじゃん?」
「ドラマというよりマンガだよ、それじゃ。大体、校内順位が上がった下がったって、今頃言っててどうするんだよ。野口だって、別に推薦入試を狙ってるとかいうわけでもないだろ?」
「そりゃまあ、理屈はそうだけどさ。やっぱ、顔が見えるライヴァルって違うじゃん。たとえ校内でも、一位が二位になった、三位が四位になった、となりゃ、心中穏やかじゃないし」
「そんなものかな……」
「絶対、そんなもんだって。大体、親がうるさいじゃん。お前、どっか抜けてるよな。大体、お前ぐらいだぜ。進路調査票白紙で出しつづけてる奴。一体どんなとんでもないところ狙ってんだ、この秘密主義」
「……」
 祐一は肩を竦める。話が一区切りしたところで、二人はそれぞれ勉強に戻った。そういえば、七月にはまた三者面談がある。そのことを思うと、祐一の気持ちはわずかに重くなった。

          ☆

 朝のホームルームで、転校生は自己紹介のために教壇に立った。最初なので様子見のつもりなのか、昨日と同じ前の学校の学ランだった。ちなみに三年一組は国公立理系を受験するクラスで、男女比は二対一、制服・私服比も二対一というところである。
 一瞬、安人は祐一に眼をとめ、かすかに笑ったのが判った。
 一組の担任は、大内という落ち着いた雰囲気の五十代の女性で、担当教科は英語だ。大内の「転校生を紹介します」という言葉に続き、教壇の安人はすらすらと自己紹介をした。
「中里安人(なかさとやすひと)です。京都の上ノ京高校から来ました。えーと、親父の転勤で、こんな時期外れの転校になりました。もう一年ないですが、どうぞよろしく、以上!」
 明るい声で言い、軽く頭を下げる。大内は教壇に戻りながら言った。
「中里くんの席はあの一番後ろになります。―――あと内原くん、それに浅見さん」
 名を呼ばれた祐一は席を立った。廊下側の席で、浅見も席を立つ。
「紹介しておくわね。うちの委員長の内原くんと副委員長の浅見さん。もし何かあったら相談してみるといいと思いますよ。二人ともとてもしっかりしてるから」
「へえ……」
安人は一瞬意外そうな表情になり、頬に笑みを浮かべる。
「二度目だな。―――よろしく、内原。それから、初めまして、浅見さん。俺男子校だったんで、女性は緊張するんだ、ホント」
「全然そんな風に見えないわよ、中里くん」
 横からおかしそうに大内が口をはさんだ。安人はゆっくりとした動作で席に着き、それで朝のショートホームルームは終了になった。

          ☆

「何か、すごく場慣れしてる感じだな。そう思わないか?」
 休み時間に、岩城が感心したように言った。
「そうだね。昨日もぼくが中庭にいたら、いきなり声かけてきたし」
「それに、全然関西なまりがない」
「転校慣れしてるのかな」
 祐一は転校生に眼をやったが、すでに輪が出来ている。「よろしく」されたとはいえ、別に敢えて声をかける必要もなさそうに思えた。結局何事もなく六限までの授業が終了し、清掃当番は清掃に、クラブ所属者はクラブに、そして祐一もその一員である帰宅部は帰り支度にとそれぞれに動き始めた。
 そこへ、安人のほうから声をかけてきた。
「いーんちょ」
 祐一は手を止め、苦笑した。
「内原だって」
「委員長だったんだ、おたく」
「うん、一応。よろしく、って言われたのはいいけど、別に必要なさそうだったから行かなかったよ」
「いや、そんなのは全然」
「全然関西なまりないんだね」
「土地の人間じゃないんだ。生まれは名古屋、小学校で二年間山口にいて、名古屋に戻って、で、小学校六年から中学一年まで横浜、それから京都、で、今回静岡に来たわけ」
 祐一は面食らった。
 それは転校慣れもするだろう。
「すごい経歴だね」
「はは、おかげさんで」
「で、校内案内しようか?」
「ああ、それも内原がよかったら。あのさ、ちょっと時間あるときに授業の進み具合とかざっと教えてくれないか?忙しかったらノート見せてくれるだけでもいいけど。仲井とか横田とか、放課後はクラブで忙しいってさ。幸い、学年首席の委員長さんがクラブやってないって聞いたから」
 すでに気軽な調子でクラスのメンバーの名を呼んでいる。本当に転校慣れしているのだろう。
「ああ、そうか。じゃあ……どうしようかな、明日まとめて持ってこようか?」
「内原、家どこ?」
「ここから歩いて十分ってとこかな。友が丘……って言っても判んないか」