夢路を辿りて
だからだろう。光彦は雅代のその後のことや、あの旦那のことを尋ねたく仕方がなかったが、母から聞いたあの最後のことを、再び雅代に思い出させてしまうのは偲びなく、迷った先に見つけた言葉、そんな喉まで出掛かっていた言葉を飲み込んでいた。
ふたりはお互いに、その頃のことには触れないような会話をして、雅代が必要としていたものを買い揃えた時、はじめて、奥に掛けていた絵を見て言った。
「あれ、わたしね。何だかとても寂しそう。」
「うん。本当に…ごめんなさい。あのときボクが…」
光彦がそこまで言ったとき、雅代は光彦の唇に軽く手をやって小さく首を振った。
「いつまでも、ああして寂しくしていても何だからねぇ。」
「あれ、よければ私にくれないかな、大事にするから。あっ!お金もちゃんと払うわ。」
雅代は光彦の気持ちを察したように、少し戯けて言ったのだった。光彦にもそのことが良く分かっていた。
光彦はその絵を包むと、店の外に置いてあった雅代の車の後部座席に、そっと乗せたのだった。
「無理言ったみたいだけど、ありがとね。」
「だけど、いつまでも過去を引きずってちゃいけないんだぞ、ボク。」
「じゃあ、また、いつか寄るかもね。」
「うん。」
雅代はあの頃のような喋り方でそう話して、車の窓越しから体を乗り出すと、光彦の頬に軽くキスをして車を走らせて行ったのだった。