夢路を辿りて
光彦はジェームスに向かって話した。
「ユア・グランドマザー、アイアム ファースト・ラブ フォエバー、アンド シー イス ベスト・フレンド。」
「バッツ マイ ファースト・ラブ、ユー アンド ミー オンリー・シークレット。」
するとそれを聞いたジェームスは、左手の指を輪っかにして、笑いながら「オキー、オキー、ドンウォーリィ」と言いながら、レモネードを飲んでいた。
「相変わらずね、橘くん。変な英語で…後で私がちゃんと通訳しておくわ、あなたが言いたかったこと。」
「ホントにありがとうね。今日はこの町に来てみてよかった。」
「それじゃ、そろそろ。」
「ああ、お互いにもういい歳だから、身体には気をつけるんだよ。」
「うん。あなたも気を付けてね。」
千穂子とジェームスがソファから立ち上がって、ジェームスが持っていた筆の料金を払おうとすると、光彦はまた変な英語で、
「ノーサンキュー。 アイアム ユア ジャパン ニュー フレンド、イッツ アニバーサリー・アイテム、プレゼント フォー ユー。」
「バッツ ネクスト オン ペイ、シー・ユー アゲイン。」
さすがにこれにはシェームスも悩んだ様子で、千穂子が笑いながら耳打ちをすると、ジェームスは「センキュ、センキュ」と光彦の両手を握ってしっかりと握手をしたのだった。
そして二人が店を出る最後に、光彦は千穂子にこう尋ねた。
「千穂子さん、あのスケッチ・ブックどうしたかなぁ?」
「今でも大切にしてるよ。あれは私のお墓まで持って行くつもりなの。」
「そう、ありがとう。それじゃ元気でね。」
「またこっちへ来ることがあったら必ず寄ってね。ジェームくんを連れて。」
「うん、そうする。」
ふたりがタクシーに乗って帰ると、光彦は店の奥に飾っていた1枚目の絵を外して、カンバスの裏側に書いてあった『My Sweet Memory』という文字を消し、代わって違う言葉を書いていた。そしてその絵と一緒に、幾つかの画材を梱包すると、千穂子から聞いたイギリスの住所宛に届けるため、集配へ手配の電話をしたのだった。