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夢路を辿りて

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第6話 夢路辿りて行き着くも


 そのとき仙石青年が驚いたのも無理はなかった。彼はしばしば光彦の店にやって来ていたが、いつも口数が少なく俯き加減でいたいた為、禄に店の中を見渡したこともなく、また、そんな仙石青年に対して、光彦も店の入り口で立っている彼に、必要なものを尋ねては用意していたのである。

 更に加えて言うと、これまで彼との会話といえば、二人がよく会ういつもの土手で、彼が絵を描いている合間に話していたわけだし、光彦の描き掛けた絵を見せた時も、それは店の倉庫でのことだったので、仙石青年が店の奥のソファに腰掛けた、いや、そもそも店の奥にまで足を踏み入れたのすら、今回が初めてだったのである。
 そんなことだから当然、こうして店の奥の壁に掛けられていた絵など、仙石青年は知る由もなく、また、そうした絵が最初は4枚飾っていたということも知りはしない。

 そして何よりも仙石青年が驚愕したのは、壁に掛けられた絵が、今回の応募に送った自分の作品と、あまりに瓜二つだったことなのである。
 仙石青年が、何度も繰り返し光彦に感謝した理由。それは彼が光彦の描き掛けた絵を引き継ぐような形で、それでも自分なりの画風やタッチを駆使して描いたわけだが、そのベースとなった構図や配色等については、光彦のものを参考にして完成させたものだったのだ。
  当然そうした経緯は光彦も承知の上だったし、光彦自身、自分が描き掛けにしていた絵が、仙石青年の恵まれた才能で生まれ変わるのかと喜び、彼が作品を描きはじめる際に、これは贋作にならないか悩んでいた時にも、光彦はこんなものは作品でも何でもないので、とにかく何も気にしないで、自分の思うがままに描けばいいとのアドバイスも送っていた。

 それは光彦にとっては極当たり前の事で、光彦が描き上げていた作品は、当時試作的に描いたものだったといっても、完成した絵とその描き掛けの絵とは、見た目にもあまりに程遠いものであり、そんな描き掛けの絵が、たまたま仙石青年が抱いていたイメージや感性に、ビジュアルとしてリンクしただけのことだと今でもそう思っている。だから光彦は、仙石青年にこれほど深く感謝される筋合いなど、自分にはないと思っていたのだ。

作品名:夢路を辿りて 作家名:天野久遠