夢路を辿りて
そんな仙石青年を見て、光彦は机の引き出しからタオルを出すと「まあ、これで顔を拭きなさいな」と言って彼に手渡したのだった。仙石青年はそのタオルを受け取ると「先生のおかげです。先生のおかげです。」と繰り返しながら、再び嗚咽を発しながら泣いてしまったのだったが、光彦は、彼にそれほど恩義を感じてもらう事はしていないと思いつつ、少々困惑気味な苦笑いを浮かべて頭を掻いていた。
「仙石君もういいから。」
「時間も遅いし、そろそろ帰らないとお母さんも心配するでしょう。」
「そうそう心配より何より、このこと、お母さんは知ってるのかい?」
「いいえ、母にはまだ何も。」
「とにかく先生に一番にお知らせしなくてはと。」
「それはそれは、こんな大事なことを私に一番とは。私の方こそありがとうだな。」
光彦がそう話すと、仙石青年はやっとタオルで押し隠していた顔を上げて、タバコを吸いながらまだ頭を掻いている光彦の方を見たのだった。すると今度は、「先生、あれっ!」と悲鳴ともつかない驚いた声をあげて、仙石青年は壁に掛けていた残りの1枚の絵を指差したのだった。