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地球が消滅するとき

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 翌日僕は山田隊長を手伝って、問診と検体の保管をこなしていった。
「針をさす時にチクッとしますよ」
 しかし針をさす時、彼らはゲラゲラと笑いだした。
「こそばいんでっしゃろ」
とボンザリ君が説明してくれた。
 お礼に渡したレトルト食品は大人には不人気だったが、子供たちは大人が残したものを奪い合うようにして食べていた。
 総勢83人で、全員血縁関係にあり、遺伝子が特異化していることが考えられる。

 圧倒的に大人の女性が少ない。出産のために亡くなる人が多いという。大人の体は小さいのに、生れ出る子供の大きさは、我々たちの新生児の大きさと変わらないらしい。どうしても体にかかる負担が大きくなるのだろう。育児は男たちが協力してこなすそうだ。

 母乳の代わりはどうするんやろう。
 哺乳瓶のようなものを見せてくれた。何かの金属のようにもみえる。
 それを見た途端、木下さんは
「ちょっとそれ見せて」
と奪うようにして取り上げたのには、周りの者たちはびっくりした。

「これはどのようにして手に入れたのですか」
「材料は谷に行ったらいっぱいあるそうや。それをこんなふうに形作ることができるんやて。谷に住むパンジャにもろうた石を粉末にして、こん中に水と一緒に入れて飲ましたら元気に育つそうや」
 ボンザリ君は一気に訳してくれた。
 
「木下さん、それがどうかしたんですか」
「石田君、これがぼくが求めていたものかもしれません。ぜひそこへ行きたいですね。それに、『谷に住むパンジャ』て他にもパンジャ族がいるんでしょうか。パンジャにもらった石て何でしょうね」
「満月の夜に、彼らはそこに行くゆうてはりまっせ。一緒に行きましょか」
 というわけで僕たちは、8月20日の満月の夜、運がいいことに翌日の夜、彼らに付いて行った。


 30分ほど北方向へ行くと、深い谷を見下ろす地点に出た。谷へは階段のように切り崩されているところを100メートルほど降りて行った。十分座れる広さの広場があった。そしてさらに下へ続く階段があった。広場には洞窟があり、1人の女性が奇妙な鳥を抱えて現れた。
 手塚治虫の漫画に出てくる火の鳥を思わせるクジャクのような、そしてあひるのようにふっくらとしている。それが『パンジャ』という鳥らしい。
 
 女性は、パンジャとともに生きてきた『アトランティデス』という名前だと教えられた。
 パンジャは女性の声を通じて毎月満月の夜に、パンジャ族の歴史を語っているということだ。
 驚いたことに、日本語で語っている。いや、周囲を見回すとみんなが聞き入っているので、それぞれの言語で聞こえているということか? これはどういうことだ・・・テレパシー?


――― アテネとの戦いに敗れた日、巨大地震が起こり、大きな波が王国を呑み込もうと押し寄せていた。
 アトラス王の娘アトランティデスは、王国の宝であり、戦の原因となっていたパンジャをからだに結わえつけて、寄せ来る大波に呑まれてしまった。

 気が付くと緑の平原にいた。50人ほどの男女と羊が数頭。
 行けども行けども平原は尽きることなく、不思議なことに食べ物と水に困ることはなかった。太陽を見ることはなかったが、明るい時と暗い時とが同じように繰り返しやってきた。気温も変わらず暮らしよい環境にあった。

 パンジャは300年ほど生きる。しかし人間の手が必要で、選ばれた少女が6歳となった日に引き継ぎが行われ『アトランティデス』と呼ばれた。彼女はパンジャとともに生き続けるのだ。

 24代目のパンジャの時、国は栄え数万の人々がいたが、大地震が生じ、どこから押し寄せたのか大洪水となって、アトランティデスはパンジャをからだに結わえつけ水に呑まれていった。

 気が付くと、この谷の岸辺に数人の男女と共に流れ着いていた。
 この洞窟を見つけ、パンジャとアトランティデスは暮らし、他のものは村を作っていった。
 ここでは太陽があり、月が満ち欠けながらやってくる。
 私は、ここへ来てから36代目である。


 煌々(こうこう)とした満月がちょうど谷の上に差しかかり、僕たちの影が濃く伸びている。コウモリが数匹飛んでいるのが見えた。みんなは、特にパンジャ族は、催眠にかかったように恍惚とした表情をしていた。
 話は続いた。


――― 次の満月は真円である。ちょうど6年前に生まれた少女にアトランティデスとしての役目を引き渡し、私の役目も次世代に引き継がせる時となった。
 よって今宵がみなの者と会う最後の日となる。

 長(おさ)は、次の満月が沈み、夜が明けてからやって来るがよい。新しい『賢者の石』を受け取ることができるであろう。すべてはアトランティデスが取り仕切ってくれる。


 パンジャとアトランティデスと一人の少女が洞窟の中へ消えて行った。
 静寂がおとずれ、みんなは頭を下げたままでいた。
 長が声をかけてようやく立ち上がり、村へ引き返し始めた。月は木にさえぎられて隠れようとしていた。獣の声が遠くに、また近くにも聞こえている。僕たちも結局村へ戻った。
作品名:地球が消滅するとき 作家名:健忘真実