恋の掟は春の空
勘違いで、本当で
「劉ちゃん、マンションは世田谷なんでしょ、この子から聞いたけど。ほら。それなら直美もたぶん30分で大学いけるでしょ。どんな所なの」
頭の中が真っ白だったのに、続けて言われてあたふたしていた。
「あのー、聞いてるかもしれないですけど、叔父が、あのー、東京の叔父が持ってるっていうか、昔、買った部屋で、それで、今、誰も住んでなくて、無理やりなんだか、そこに住めって、言われちゃって、場所は、たしか小田急線の豪徳寺のそばで、でも、見た事はないんですけど・・・だからあんまり分からなくって、それでたぶん、小さい部屋で、1部屋ではないんですけど、2部屋らしいんですけど、たぶん きっと狭いんです」
もう、なにがなんだか、しどろもどろだった。
「1部屋でも充分じゃない」
おかーさんは、なぜかうれしそうだった。
「ほら、おにーちゃんがいるから、一緒にって思ったんだけど、どうしても、妹とはイヤだって、言うのよ。だからねー 劉ちゃと一緒ならなら安心だから」
横目で直美の顔を見ると、うれしそうに俺を見ていた。
「もう、あと10日で、4月になっちゃうのに、部屋も決まってないのよ。困っちゃうのよねー。ねーだめかしら。劉ちゃんお願いできないかしら」
ちょっと もう 気絶しそうだった。
「ちょっと、いいですか、直美さんに話があるんですけど・・」
「え、私に、ここでいいじゃん」
きょとんとしていた。
「いや、ちょっと、こっち来て」
言いながら彼女の腕をつかんで立ち上がって席を離れた。
「なに、どうしたの、劉・・」
彼女の耳元で小さく聞いてみた。
「ねぇ、一緒の部屋で住んじゃうの、俺と直美で・・それって、あのー俺はいいけど・・直美もそうなの・・えっと同棲ってこと・・」
話の途中で大きな声で笑われた。
「やだー おかーさん、劉がなんか勘違いしてるんだけど・・」
振り返って、おかーさんを見て直美は笑っていた。
俺は、また、なにがなんだか、ほんとうに なにがなんだか、だった。
「おかーさん、劉ね、なんか勘違いしてるみたいよ。同棲ですかって聞かれたよー」
おかーさんも 直美も席で大笑いしていた。
俺は、まだ、その横で二人を見ていた。分けが分からなかった。
「あらー それでも私はいいんだけど、おとーさんに怒られちゃうから、言い方が悪かったかしら・・。劉ちゃんのマンションの別の部屋のどこかに、空き部屋がないかしらって・・やだーもうー劉ちゃんたら」
笑いながらのおかーさんだった。
もう、言葉もでなかった。
直美は、俺を見て「バーカ」って口を動かして笑っていた。
「座って、劉ちゃん。大丈夫かしら、がっかりしちゃったかしら」
おかーさんが 悪そうに話しかけた。
がっかりより、力が抜けて椅子に座り込んだ。恥ずかしかった。
「一緒に直美も劉のお部屋に住まわせてちょうだい、って思っちゃったの・・劉ってば・・やだー」
うれしそうに、俺の顔を見てまだ直美は笑っていた。
「あ、すいません 勘違いしちゃいました。ごめんなさい」
もう、とんでもなく恥ずかしかった。
コーヒーを一生懸命飲みながら、笑っている直美をにらんでいた。