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恋の掟は春の空

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卒業式のその後で



泣いてるのもいたし、すんげーうれしそうな奴もいた。
今日は高校の卒業式だった。

「劉ぅー あとで、体育館の入り口のところねぇー。昨日言ったところだよー」
直美の声が 10m後ろぐらいから聞こえてきた。振り返ってみると、さっきはちょっと泣いてたくせに、いまは、いつもの笑顔の直美だった。
「うん。10分後ぐらいでいいかなぁー。バレー部の後輩にに挨拶してくるから」
昨日、電話で卒業式が終わったら「ちょっと時間くれないかなぁ」って言われていた。
「うん、あー、劉ぅーちょっと待って、そこで待ってて」
言いながら友達をかき分けながら小走りで近寄ってきて目の前に立った。
「どうしたのよ」
「ちょうだい。制服のボタン」
ピンクの笑顔だった。
「あとで、いいじゃん。今じゃなくてもさ」
ちょっと、おかしくて笑っていた。
「あのね、劉ってさ、後輩の女の子が「先輩、すいませんお願いします第二ボタンください」って言ったら、断れないでしょう。あげちゃうでしょ。知ってるんだから性格。絶対そうなんだから」
直美の口調は、まるで俺が、すでに誰かにあげちゃって怒ってるような勢いだった。
「はぃ、これ」
無造作にボタンをとって彼女に差し出した。
「うん うん よかった。あぶなかった」
笑いながら、ハンカチに包んで制服のポケットにしまいこんだ。
「じゃ、あとでね」
言い終わると、また仲のいい友達のところに戻っていった。後ろのほうで「いいなー直美」って声が聞こえていた。

バレー部の後輩に、ひととおりの挨拶を偉そうに言って、昨日直美に、電話で言われた体育館の入り口の角に向かう事にした。
なんで 呼び出されたのかはわからなかった。
「劉ちゃん 悪いわねぇー」
びっくりした、直美のおかーさんだった。
直美はおかーさんの後ろにちょこんとに立っていた。
「あ、いいえ、いつも、どうも、あのー、いらっしゃってたんですね。卒業式ですもんね」
うまく言えたかは、わからなかった。
「おかーさんがね 話あるんだって、劉に」
恥ずかしそうな直美の声だった。
「劉ちゃんのおかーさんは、今日は来てないの?」
「ええ、男ばっかりですから家は。あんまりこういうの興味ないらしいんですよ」
本当の話だった。
「あのね、劉ちゃんに頼みがあるんだけど、ちょっとどこかでコーヒーでも飲みながらいいかしら。時間かからないから」
遠慮がちにおかーさんが言ってきた。
「大丈夫ですよ。じゃあ グラウンドの向こうの喫茶店でいいですか?」
言い終えて、3人で歩き出した。
「なに?頼みって?」
小声で直美に聞くと、「うん、うん、あとでね」って小声で返された。

歩いて5分の距離だったけれど、なんかドキドキして、ずっと黙って先頭を歩いていた。
よく行く喫茶店「サラン」に入るとマスターが「卒業おめでとう」って笑顔を俺と直美に贈ってくれた。
直美とおかーさん、こっちに俺って向かい合って店の奥の席に座ることになった。緊張していた。頼みって言われても何の話がでるのかまったく分からなかった。
頼んだコーヒーが来ると、おかーさんが本題を話し始めるようだった。

「劉ちゃん、東京のマンション決めたんでしょ。この子から聞いたんだけど・・そこに直美も一緒に住めないかしら・・」
頭がカラッポになった。目が点って、このことだった。
心臓がバクバク言い出していた。

作品名:恋の掟は春の空 作家名:森脇劉生