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恋の掟は春の空

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震える声と 唇と


「着いちゃうよ」
電車は世田谷線の「宮之阪」にもうすぐだった。
「わ、寝ちゃった」
「うんとね 30秒で寝てた」
ちょっと からかいながら言ったけど本当のことだった。
「今日も 明日の朝ごはんの食材買えなかったぁ・・ねぇ コンビニで何か買っていこうか」
ちょうど帰り道の途中だったから、それは俺も考えていた事だった。
「うん。じゃぁ 寄っていこうか」
電車を降りると、いつものように手を握っていた。小さく指が動いたので指と指を絡めなおして握りなおした。ぎゅーって、握り返されていた。

炊飯器もなかったし、ご飯は炊けそうになかったから、食パンと卵を買うことにした。オーブントースターもなかったけど。
「焼けないけど いいよね。明日になればいろいろ電化製品届くから我慢してね。そうしたらおいしいの作ってあげるから・・」
「おいしいかどうかは・・」
「もー おいしいいに決まってるでしょ。料理得意っていつも言ってるのに・・」
言いながら 俺の鼻は彼女の指で握られていた、けっこう痛かった。
レジを済ませて歩きだすと、東京だったけど 静かな夜だった。
緩やかな坂を登って1分歩くとマンションの入り口だった。

「あ、そうだ。鍵って2本あったでしょ・・1本頂戴ね。直美のはあげないけど・・」
エレベーターを待ちながら言われていた。
「だってさ、留守の時に劉が部屋に来たら 恥ずかしいもん・・」
けっこう以外だった。
「じゃあ、部屋に帰ったら後でね」
言い終わると5階に着いていた。
「今日は自分の部屋で寝ないの・・・」
エレベーターの5階のボタンを押しながら考えていた事だった。
返事はなくて、直美は俺の顔を見て ニコって笑うだけだった。

「うーん 着いたぁぁぁ」
玄関のドアを開けて先に直美を部屋に入れると、薄暗い部屋に直美の声だけが響いていた。
「早く 電気つけなよ」
靴を脱いでいる直美に言っていた。
「だーめ。はやく 劉もあがって玄関閉めてよ・・」
言われて玄関のドアを閉めると 本当に真っ暗になっていた。
「今日も、ここに泊まっちゃってもいい・・」
ほんとうに、うっすら見える直美の顔がこっちを見ていた。
「ねぇ 劉は直美の事、本当に好き・・愛してる・・」
そんな事を言うとは思わなかった。ドキドキしていた。
「大好きだよ 直美が・・」
「愛してないのぉ・・愛してるって言ってよ。言われた事ないもん」
彼女の声と身体は知らない間に俺の胸の中にあった。胸の前でその言葉が響いていた。
「愛してるよ。すごく愛してる」
彼女のおでこの前で口を動かしていた。
「私も なんだかわからないけど 劉が、だーい好きですごーく愛してる・・私が劉を愛してるぐらい愛してね・・劉も・・」
胸の中にあった直美の身体を抱きしめた。
「これ 降ろして・・」
言われたのはコンビニの袋だった。
そのまま床に落として、両手で彼女の背中もっとを抱きしめていた。
真っ暗な部屋で、長いキスをした。

「このまま ベッドに連れてって・・」
声が震えていた。
抱える事はできなかったけど、腰に手を回して直美の身体をベッドに横にして、もっと抱きしめて もっとキスをした。
なぜか 唇も震えていた。俺の唇も震えていそうだった。いつもとは違っていた。
そのまま 彼女の服を脱がせ、初めて彼女の身体のすべてを抱きしめた。
心と心 体と体を確かめ合った。
震える身体と、震える心のようだった。
直美の鼓動も 俺の鼓動も はっきりと闇に響いていた。
「愛してるよ 直美・・」
「わたしもだよ・・・劉・・」
何度も何度も その事を口にしていた。
暗闇に輝く直美の瞳は、少し濡れて光っていた。

この世界で君を1番に愛して、君だけにはすべての俺の心を許そうって心の中でつぶやきながら愛する彼女をずっと抱きしめていた。

作品名:恋の掟は春の空 作家名:森脇劉生